お世話になっております。ご無沙汰しております。色々ございまして、久々の更新となってしまいました。皆さまお元気でしょうか。
最近、Twitterをやめたんですけども、こちらのブログの方はどうしようか迷いまして、迷った結果残すことにしました。特に仕事関係でトラブったわけでもないので、今まで通り公開情報のソースを明記して時間があるときに記事を更新しようかな、と。
久々の更新記事は現在の半導体市況についてです。半導体市場はシリコンサイクルと言って大体4年に一度のサイクルで市場の増減を繰り返してきました。下記はWSTSの統計をもとに筆者が作成した出荷額の推移です。前回のダウントレンドは2018年→2019年だったのですがシリコンサイクル通りに行くと今年2022年がいったんピークとなり、来年2023年はいったん市場がへこみます。
そして各半導体メーカーの決算や調査会社の資料に目を通すと、インフレや長引くサプライチェーンの混乱により特にスマホ市場とPC市場という半導体の2大市場が減速しており特にメモリ半導体は数クオーターにわたる出荷数成長の減速と平均販売単価の下落が予想されています。また、それにより特に前工程半導体製造装置の投資抑制が示唆されております。
Micron(マイクロン / $MU)の3月-5月期の決算と6月-8月期のガイダンス下方修正
6月末にアメリカのメモリ半導体大手のMicron(マイクロン / $MU)の3月ー5月期の決算発表がありました。
マイクロンは何度もブログで取り上げておりますが、DRAMとNANDフラッシュというメモリ半導体の大手メーカーです。
メモリ半導体の特長として
・半導体市場の約3割 (2022年半導体出荷総額予測 $547Bうちメモリは$182B – 参考 WSTS世界半導体統計)
・コモディティであるが故に取引の流動性が高く、価格が変化しやすい
・メモリ半導体の動向は半導体市場の先行指標として捉えられる
アナリストたちの予測によると、現在、メモリ需要が伸び悩んでいるのは、これまで盛況にあった半導体業界が減速に向かっているという兆候を示す
引用 – EE Times 低迷するメモリ需要は、半導体市場減速の兆候を示す
という事が挙げられます。
さて、肝心のMicronの決算ですが簡単にまとめますと下記のようになりました。
Micron 3月 – 6月期決算
粗利率: 47% – QoQ -1ppt / YoY +4ppt
営業利益率: 36% – QoQ +1ppt / YoY +4ppt
EPS: $2.59 – QoQ +21% / YoY +37%
下記はMicron社の決算資料からのスクショです。上から二段目のMBUというのがスマホ向けのメモリー事業の業績なのですが、YoY -2%のマイナス成長、QoQも5%の一桁成長にとどまっています。半導体市場におけるスマホ向け市場は大体全体の3割程度を占める大きな市場です。特にメモリメーカーやロジック半導体メーカーは処理能力の向上と省電力の向上を求めるスマホ向けに微細化を極めた最先端製品を投入します。

Smartphone unit sales expectations have declined meaningfully for calendar 2022. We are now projecting smartphone unit volume to decline by mid-single-digits percentage range year over year in calendar 2022, well below the industry and customer expectation earlier in the year of mid-single-digit percentage growth. 5G unit sales are expected to grow and reach approximately 50% penetration of the smartphone unit total addressable market (TAM) this year.
引用 – Micron Technology, Inc. Fiscal Q3 2022 Earnings Call Prepared Remarks
調査会社ガートナーは30日、世界のパソコン(PC)とスマートフォンの出荷台数が今年は減少するとの見通しを示し、インフレによる個人消費の落ち込みと中国経済の減速を要因として挙げた。世界最大の市場である中国向けのスマホ出荷台数は、厳しい新型コロナウイルス規制の影響で18%減少する見込み。世界全体では7%の減少を予想している。サプライチェーンの混乱が打撃となるほか、ウクライナ紛争が需要を圧迫するとしている。
引用 – ロイター『今年のスマホ・PC出荷台数は減少へ、中国が減速=ガートナー』
②PC市場も減速している
PC市場も半導体TAMの3割近くを占めます。そんなPC市場も減速しています。
MicronのPC事業部(CNBU)自体はプラス成長を維持しておりますが、下記のようにPCの出荷台数成長率も年初のフラットから-10%のマイナス成長に転じることが明記されています。
A number of factors have impacted consumer PC demand in various geographies. As a consequence, our forecast for calendar 2022 PC unit sales is now expected to decline by nearly 10% year over year from the very strong unit sales in calendar 2021. This compares to an industry and customer forecast of roughly flat calendar 2022 PC unit sales at the start of this calendar year.
引用 – Micron Technology, Inc. Fiscal Q3 2022 Earnings Call Prepared Remarks
③生産量と在庫調整を行うと明言
下記はメモリ半導体市場全体およびMicron特有のOutlookです(Micron FQ3 Earnings Presentationより)。
既に上述しましたが、『スマホとPC市場の減速により、短期的なbit需要の大幅減速が見込まれる (Near the end of fiscal Q3, we saw a significant reduction in near-term industry bit demand, primarily attributable to end demand weakness in consumer markets, including PC and smartphone )』と明記されています。Bit需要(bit demand)というのは簡単に言うとメモリ半導体の出荷個数と理解していただければOKです。
簡単に言うと供給過剰に陥っているということではないでしょうか。そして、それに対するMicronのとる対処法は『供給を抑制します』という事になります。
・FY23の前工程Capexを減少させる(reduce wafer fab equipment capex for FY23 versus our prior plans and wenow expect our FY23 wafer fab equipment capex to decline Y/Y)
Micron 6月-8月期のガイダンスとさらなる下方修正
そんなMicronの3月ー5月期決算内容ではPC・スマホという2大半導体市場の減速が明言されていた訳なのですが当時示されていた翌期ガイダンスを振り返ってみます。
売上: $7.2B±400M … QoQ -16.6% / YoY -13%
粗利率: 42.5%±1.5% … QoQ -4.1ppt / YoY -5.4ppt
EPS: $1.63±$0.20 … QoQ -30% / YoY -32%
Across the industry, there are cost challenges stemming from supply chain and inflationary pressures; however, we continue to expect our cost reductions to outpace those of the industry this year, driven by excellent productivity improvements in our fabs and the well-executed ramp of our world-class 1α DRAM and 176-layer NAND nodes.

Micron 6-8月期のガイダンスのさらなる下方修正?
と、6月時点でのMicronの今期の業績見通しはメモリ半導体だけでなく半導体市場全体の暗転を示唆する内容だったと思うのですが、8月9日時点でさらなるガイダンスの修正が発表されました(参考 Micron Update on Business Conditions)。以下が本文と簡単な和訳です。
TrendForceは2022年7月4日(台湾時間)付のレポートの中で、「一部のDRAMメーカーは、2022年後半の繁忙期の需要が不透明であるという問題に直面していることから、特に需要が比較的安定しているサーバ市場において、在庫圧力を緩和するために実質的な値下げを行うという意思を明示している。このため、2022年第3四半期のDRAM価格は、前四半期比で約10%下がる見込みだ」と述べている。
引用 – EETimes『低迷するメモリ需要は、半導体市場減速の兆候を示す』
DRAMは投資抑制、NANDはチキンレース継続?東京エレクトロン(TEL)の決算から
供給過剰に陥ったメモリ半導体市場への対処として最も簡単で有効な解決策は供給抑制です。しかし、一口にメモリ半導体といってもDRAMとNANDで様子が異なるようです。
下記は東京エレクトロンの第一四半期決算資料となります。カレンダーイヤー2022年の前工程装置市場の見通しとして下記のように示されております。
・不揮発性メモリ(NAND)→前年比10%程度の増加
需給ひっ迫が続く半導体もある
これまで、半導体市場の先行きの暗転について書いてみましたが、半導体といっても品種は様々で、モノによってはまだまだひっ迫が継続している分野もあるようです。
例えば日本の大手半導体メーカー、ルネサスエレクトロニクスの決算質疑応答では下記のようなコメントがありました。
半導体全体のサプライとデマンドのバランスに関して言うと、マクロで全部アグリゲートしてしま
うと、既に充足しているのではないかと思います。一方で、先ほどから繰り返しお伝えしている、
特定の製造キャパシティーを必要とするような製品は、集中的にデマンドがいっています。そこは
残念ながらキャパシティーが増えていく見通しがなかったりしていますので、一部の領域、一部の
製品にタイトネスが集中している状況にあると思うんですよね。
引用 – ルネサスエレクトロニクス第二四半期決算発表会
質疑応答のリンク先はすべて日本語ですので読んでみて貰えばとは思うのですが、簡単に言うとメモリやロジックといったPCやスマホに使われるボリュームゾーンの半導体の需給バランスはだいぶ整ってきているが、一方で産業機械とか自動車に使われる一部のレガシープロセスを使う半導体は相変わらず供給がひっ迫していますよ、ということです。
日経新聞の下記の記事なんか参考になると思います。

あと、個人的にDDR4→DDR5のトランジションが遅れているというコメントも気になりましたがこれは8月末のマイクロン社の決算で詳しいことが聞けると思いますのでその時にまた記事にしたいと思います。
以上です、ありがとうございました。