TSMCなど半導体ファウンドリの値上げは2022年も継続?

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お世話になっております。

少し前の記事ではありますが、Counter Pointが“TSMC Price Hike Indicates Capacity Tightness to Persist in 2022, May Hit Smartphone Shipments”という表題の記事を出していました。

TSMC Price Hike Indicates Capacity Tightness to Persist in 2022
TSMC’s recent adjustment on wafer prices indicates that the price hikes in the foundry industry will continue into 2022, in light of supply tightness

記事をまとめると、下記のようなポイントとなります。

・半導体ファウンドリ各社による値上げ幅は2020年〜21年Q3までで最大40%
・特にレガシープロセス(22nm以前と本記事では定義)の値上げが顕著
・2022年も値上がりの傾向は継続するがレガシープロセスと5nmや7nmといった先端プロセスでは対応が異なる、先端プロセスは戦略的に値上げが抑えられるだろう
・スマートフォンなどの最終製品のコスト増と需要へ影響を与える

本記事では関連する半導体ファウンドリ各社が公表している決算資料や、その他の関連するニュース記事から得られる情報を元にCounter Pointの記事へ解説を加えていきたいと思います。

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2020年から2021年Q3までに最大40%の値上げが行われた

Counter Pointによりますと、2020年から今年のQ3までの間に半導体ファウンドリによる最大40%の値上げが行われたとのことです。さらに2022年にも最大20%の値上げがなされる可能性が高いとしつつも、レガシープロセスと10nm以下の先端プロセスでは顧客との関係を重視し、値上げ率に対する対応が異なるだろう、としています。

しかもレガシープロセスのほうが値上げ率が高く、一方で10nm以下の先端プロセスは値上げ率が低い、もしくはコストダウンを行うらしいのです。

Wafer prices at matured nodes have increased by 25-40% between 2020 and the current quarter, and are likely to rise another 10-20% by 2022. We do not expect a similar magnitude in advanced/leading-edge nodes (10nm and below) since both TSMC and Samsung focus more on customer relationships and cost-down executions to maintain profitability.
引用 – Counter Point “TSMC Price Hike Indicates Capacity Tightness to Persist in 2022, May Hit Smartphone Shipments”

下記画像はCounter Point記事より引用。

半導体ファウンドリによる値上げが行われる理由

半導体ファウンドリによる値上げが行われる理由はいくつか挙げられると思います。

・ウェハなどの部材の値上げ
・供給増のために必要な投資資金を確保するため
・二重オーダーを防止するため

ウェハなどの部材の値上げ

半導体デバイスは主にシリコンウェハから作られます。好調な需要を背景に、そのシリコンウェハを供給する企業が半導体ファウンドリや自社工場を持つ半導体メーカーに対して値上げを行っているという報道がなされているのはご存知でしょう。

世界的な半導体の需給逼迫を背景に、市場に値上げの波が押し寄せている。半導体業界のサプライヤー各社は、4月から価格を10~20%引き上げるとの通知書を次々に顧客に送りつけている。値上げはサプライチェーンの上流から始まった。シリコンウエハーの製造で世界最大手の信越化学工業は3月初め、原材料のシリコンの高騰を理由に4月1日からウエハーの価格を10~20%引き上げると発表。中国のシリコンウエハー大手の硅産業集団(NSIG)も一部の製品を値上げした。
引用 – 東洋経済オンライン『半導体チップ「供給不足」に続いて「値上げ」の波』

結果、シリコンウェハなどの原材料値上げによりマージンを圧縮された半導体ファウンドリや半導体メーカーが値上げという形で顧客に対して価格転換を行ったと報道されています。

台湾のファウンドリー(半導体の受託製造)大手の聯華電子(UMC)や力晶積成電子製造(PSMC)、同じく中国の中芯国際集成電路製造(SMIC)などが、2021年4~6月期からの値上げを計画している。ファウンドリ世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)は、大口顧客へのディスカウントをやめて実質的に値上げした。
引用 – 東洋経済オンライン『半導体チップ「供給不足」に続いて「値上げ」の波』

供給増のために必要な投資資金を確保するため

半導体不足を解決するためには、半導体の供給量を増やすしかありません。様々な製品へ使われる半導体の需要は増え続けており、それに伴い半導体メーカーや半導体ファウンドリ各社も生産能力に対する投資をしています。

しかし、半導体の生産能力に対する投資には莫大な費用がかかります。それらの費用を負担するためには一定のマージン率を確保していくことが必要不可欠ということでしょう。しかし、これは長い目で見れば、半導体製品を使う顧客にとっても大切なことです。半導体の生産能力が増強されることで、必要な時に必要な数量を買うことが出来ますし、供給に余裕がでれば複数の半導体サプライヤー同士の価格競争も合理経済のもとで発生する(売手市場から買手市場になる)のでコストの観点からもプラスの環境になり得るでしょう。

値上げでは半導体サプライヤーが一人で儲けているわけではなく、将来のサプライチェーン全体に対する投資なのでは無いでしょうか。

TSMCがさらなる値上げに踏み切る理由の一つは収益力の低下懸念だ。2021~23年の3年間で過去最大の約11兆円の投資を表明しており、本格化する海外展開を前に、利益低下に対する危機感が強まっている。21年4~6月期の売上高純利益率は36%と依然高水準を維持するものの、「(新工場を建設中の)米国や(新工場を検討する)日本での生産はコストが非常に高い」と経営陣は指摘する
引用 – 日経新聞『台湾TSMC、半導体最大20%値上げへ 最終製品にも影響』

半導体のプロセスの微細化には莫大な設備投資が必要である。Samsungでも、米国の先端ファウンドリファブの増設のために19兆ウォン(約1兆8000億円)の投資を計画しているが、そうした資金を捻出するためには、ファウンドリ事業の営業利益を高める必要があるという。
引用 – マイナビニュース『Samsung、ファウンドリ製造受託価格値上げを検討か? – 韓国メディア報道』

二重オーダーを防止するため

最後に、二重オーダーを防止するため、という指摘がされているのを見つけました。

アナリストはTSMCが値上げに踏み切ったのには2つの目的があるとしています。1つは、価格の上昇は需要を押し下げ、TSMCの半導体を必要不可欠とする顧客のみに供給を絞れること。
引用 – 『TSMCが半導体を最大20%値上げへ』

引用元がGigaZineなので少し説得性には疑問符が付きますが、この考えは個人的には納得できます。

通常、半導体に限らず部品を購入する顧客は実際の生産に必要な数量よりある程度多い数量の在庫を持つことで需要の上振れに対応すると思います。しかし、モノ不足を懸念して過剰な量のセーフティオーダーを打つことはサプライチェーンに大きな影響を与えかねないことが指摘されています。

TSMCのMark Liu董事長(=会長、元CEO)は3月30日、台湾半導体産業協会(TSIA)理事長としてTSIAの年度大会に出席し、「世界的な半導体不足が生じたのは、不確定要素が増えてオーバーブッキング(重複発注)が増えているためで、特に28nmなどの成熟プロセスは、需要よりも全世界の生産能力の方が上回っている」と述べたと、複数の台湾メディアが報じている。
引用 – 『半導体不足は重複発注によるもの、余力があるプロセスも – TSMC会長発言』

サプライヤーとしては顧客から受けた注文書の数量を指定納期のお届けるすることが使命ですが、供給能力は限られており、多くの顧客が過剰発注をしていまうと本当に生産に必要な数量が入手できずセット生産ができなくなり事業の継続ができなくなってしまう顧客も出てきてしまいます。サプライヤーとしてはすべてのお客様に満足してもらわないと行けないですし、過剰発注の皺寄せを喰らいセット生産が出来ず結果的に需要が減ってしまうことはサプライヤーにとっても望ましい事態ではありません。

ただ、半導体メーカーの営業マンがお客様に対して『いや、無駄な量は発注しないで下さい』というわけにも行きません。

そこで、値上げをすることで需要を抑制し、本当に必要な量+適度なセーフティ在庫のみを発注してもらえるように顧客へ促しているのではないか、という上記の指摘は確かに納得が行くのではないでしょうか。

アナログ半導体メーカー最大手のTIもQ1の決算コールで『顧客からの受注をどう扱うか、全ての数量を手当り次第出荷しているのか?』というアナリストの質問に対して『従来の代理店経由のビジネスから直販に切り替えていることにより顧客の本当に必要な量を理解し、それに合わせて生産などのアロケーション調整をしている』と回答をしており、好調な需要の水面下に潜む二重発注に対する懸念を持っている事と何らかの対策を行うことで(この場合は直販ビジネスで顧客の需要を理解する)アロケーションの調整をしていることがわかります。

Stacy Aaron Rasgon Sanford C. Bernstein & Co., LLC., Research Division – Senior Analyst 
I’ll use the follow-up. How are you parsing the quality of the orders that you’re getting? Or are you just shipping whatever is being ordered at this point?

Rafael R. Lizardi Texas Instruments Incorporated – Senior VP of Finance & Operations, CFO and CAO
… And now we’re going direct with a lot of our customers to the point where we exited last year with almost two-thirds of our revenue shipping direct. That has put us in a great position, particularly in the current environment because we now have more direct access to those customers. We have a better understanding of what they really need… So then we use that information to better allocate our resources, both inventory, manufacturing, et cetera, in order to fulfill demand from our customers
引用 – TI Earnings Call Transcript Q1 2021

2022年も続く値上げはレガシープロセスと最先端品で違いがあるらしい

Counter Pointの記事に戻ります。2022年も半導体ファウンドリによる値上げが継続するとありますが、実情はプロセスごとに様々で、レガシープロセス(本記事では22nmよりも古いと定義)の22年の値上げ幅が最大20%に達するのに対し、10nm以下の先端品は戦略的に値上げ幅が抑えられるという点が指摘されています。

Wafer prices at matured nodes have increased by 25-40% between 2020 and the current quarter, and are likely to rise another 10-20% by 2022. We do not expect a similar magnitude in advanced/leading-edge nodes (10nm and below) since both TSMC and Samsung focus more on customer relationships and cost-down executions to maintain profitability.
引用 – Counter Point “TSMC Price Hike Indicates Capacity Tightness to Persist in 2022, May Hit Smartphone Shipments”

画像引用(Counter Point記事より)

通常、付加価値が高く、供給できるファウンドリも限られ、更に研究開発や設備投資もバカにならない先端品の価格の上昇幅は上がりやすいと考える方もいるかも知れませんが、なぜその逆の事が起きるのでしょうか。以下、個人的に考察してみます。

レガシープロセス特有の課題

現在半導体は主に200ミリ(≒8インチ)と300mm(≒12インチ)という2つのサイズのウェハで生産されており、非常にざっくりとした説明ですがレガシープロセスであれば200mm、先端品であれば300mmのウェハで生産されています。

しかし、ボリュームゾーンは300ミリウェハとなっており、ウェハメーカーによる200ミリウェハの供給増は困難であるということが指摘されています。

SEMI(国際半導体製造装置材料協会)の予測では、シリコンウェハ出荷面積は2021~2023年に年率4~5%で増加する見通しです。ただし、信越化学工業、SUMCOともに、今の価格では顧客からの注文に応じて生産設備を逐次増強するだけとしています。SUMCOは新工場建設による大幅な生産能力増強(グリーンフィールド投資)には300ミリの価格が今の水準から50~60%上昇する必要があるとしています。また、200ミリの増産は装置調達の難しさから困難としています。
引用 – 楽天トウシル『特集:シリコンウェハ業界(信越化学工業、SUMCO)―再びシリコンウェハ不足の時代が到来する!?』

例えば28nmでは、ウエハー1枚当たりの価格は2500米ドルを上回る。8インチウエハーの見積もり価格は1枚約600米ドルと高額で、2022年も高止まりが続くと予測されている…8インチウエハーの供給を増やすことは、製造装置の調達が困難なことから、より難しいと考えている
引用 – 『半導体市場、2024年には過剰供給に陥るリスクも』

このことから、特にレガシープロセスに必要とされる半導体の部材の需給バランスが改善されにくく、部材レベルでの価格高騰率がより高くなるのではないか?と考えることが出来ると思います。

レガシープロセスを主に供給しているメーカーの利益率改善

一方で、レガシープロセスの半導体ファウンドリの利益率は決して高く有りません。

下記は2020年Q4までのファウンドリ各社の四半期ごとの営業利益率推移を纏めたグラフです(各社の決算資料を参考に筆者が作成)。

昨年末時点で40%台に営業利益率が達しているのはTSMC一社だけで、その他の半導体ファウンドリは10%台前半を推移していました

また、同様にプロセスノード別の売上シェアをまとめると以下のようになります(各社の決算資料を元に筆者が作成)。TSMCとSamsungは28nm以下のプロセス比率が高いですが、UMCなどその他の半導体ファウンドリは売上の多くが40nm以前の古いプロセスで構成されています。

この事から、TSMC以外はそもそも利益率が低かった半導体ファウンドリは、供給逼迫を受けて高騰する部材の値段や生産設備投資に耐えられる利鞘が少ないため利益率改善を行うために大胆に値上げに踏み切ったのではないかと考えられると思います。

先端品は顧客関係を重視

最後に、Counter Pointは”Both TSMC and Samsung focus more on customer relationships and cost-down executions to maintain profitability”としており、先端プロセスの値上げについては顧客関係を鑑みた戦略的な対応を取ることを予想しています。

そもそも、5nmや7nmといった先端品を供給できる半導体ファウンドリはTSMCとSamsung2社に限られていますが、一方でこれらの先端品を必要とする半導体の顧客も一部の大手ロジックメーカーに限定されます。それも超お得意様のメーカーです。

特に7ナノ、5ナノプロセスの生産が可能なTSMCとサムスン電子に恩恵が集中すると予想される。SK証券のユン・ヒョクチン研究員は「TSMCとサムスン電子のファウンドリーの生産能力はフルブッキング状態という。クアルコム、アップル、エヌビディア、AMD、インテルなど5ナノ以下のプロセスを求める大型ファブレスの途轍もない需要が待機している状態」
引用 – 中央日報『サムスン電子、世界1位のTSMCとファウンドリー市場でシェア格差縮められるか』

しかし、そのシェアの構図を見るとTSMCが圧倒的です(下記グラフはTrend Forceより)。

サムスン電子は様々な事業を持ち、特に半導体ではメモリーの王者ですが、上下のブレが激しいメモリだけに事業を集中せず、安定的に成長が見込まれるロジック半導体の受託製造に力を入れると数年前から標榜しています。

Samsungが注力するファウンドリビジネス - 7nmはEUVを完全採用 (1)
去る9月4日、韓国Samsung Electronicsは都内で通算2回目となる「SFF(Samsung Foundry Forum)2018 Japan」を開催した。このSFF 2018に先立って報道関係者向けに説明会が開催されたので、こちらの内容を中心に、SFF 2018で明らかにされた情報などをいくつか加味しつつ...

サムスン電子が5ナノ以下の量産を増やし、相次ぎ大型契約を受注して来年には小幅ではあるがシェア格差が減る可能性が大きい。サムスン電子は7-9月期の業績カンファレンスコールで「現在顧客から高性能微細化工程に対する要求が大幅に増加している。2021年は市場成長率を上回ってシェアが意味ある上昇を記録すると期待する」と明らかにした
引用 – 中央日報『サムスン電子、世界1位のTSMCとファウンドリー市場でシェア格差縮められるか』

さらに、上述の通りTSMCの決算の数字を見ると既に先端プロセス品では十分な利鞘が確保されており、部材の値上げにも対応できるマージン率があるのではないでしょうか。

この事から、需給逼迫と部材高騰・莫大な投資額という様々な背景があるにも関わらず、TSMCからシェアを奪うために猛追するサムスン電子と、首位の座を堅持したいTSMCの思惑がありCounter Pointが指摘するような先端品プロセスでは戦略的な価格対応がなされているのではないかと推察します。

以上ですありがとうございます。

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