お世話になっています。
アップル(Apple)が9月14日にiPhone 13などの新製品を発表しました。

私はずっとアップルユーザーですし、半導体業界人としても新型iPhoneにはもちろん大注目なのですが、今回はiPhoneのメモリー容量別の価格差について解説してみようと思います。
プロセッサーとかディスプレイとかバッテリーとかモデムとかそういうのは触れません。EEタイムズとかiFixitの記事を待ちましょう。
iPhone 13の価格帯
今回発表されたiPhoneはiPhone 13miniとかiPhone 13とかProとかPro Maxとか色々あるのですが、AppleのUSサイトで公開されているiPhone 13の価格を見てみます(スクリーンショットはApple社のHPより)。
iPhone 13の価格帯はストレージの容量ごとに3種類あります。
・128GB: $799
・256GB: $899
・512GB: $1,099
ストレージ以外のスペックは同じですので、単純にメモリーの容量差が価格に直結しています。128GB容量が上がるごとに+$100ということですね。GB(ギガバイト)あたりの容量単価で言いますと$100÷128GB=約$0.78/GBとなります。これが果たしてどんくらいマージン乗ってるのか、そして割高なのかどうなのか、気になりますよね。
以下解説してまいります。
iPhoneに使われるメモリー半導体について
その前に簡単にスマホに使われるメモリー半導体のおさらいです。知ってる人は読み飛ばして下さい。
スマホにはざっとDRAM(ディーラム)とNAND(ナンド)という2種類のメモリー半導体が使われています。NOR(ノア)というのもあるんですけど細かいので省きます。
上記のストレージに使われるメモリー半導体はNANDです。これはデータを記憶保持するための半導体で写真とか動画とかそういうデータが保存される場所です。容量が大きければ大きいほど、たくさんのデータを保存できます。容量が大きければ大きいほど、値段が高いというロジックには納得です。
DRAMはアプリケーションなどを動作させるための作業領域に使われます。NANDに比べて容量は2GBとか4GBとか小さいです。詳しい説明は省きますがDRAMには写真とか動画のデータを長期間保存しません。その代わり、CPUが作業をする手助けをします。よく、CPUが人間の頭脳だとするとDRAMは作業をするデスクの広さとして例えられます。NANDは本棚です。詳しくは下記の記事を御覧ください。

iPhoneのストレージ価格差について
本題に入ります。128GBごとに$100値段が上がるということは$100÷128GB = $0.78/GBということになります。メモリー半導体の世界ではGBの価格で値段を見る癖があります。この値段は割高なのでしょうか。以下で説明する一般的なNAND価格を基準とした場合これは非常に割高である、と断言できます。
そもそもスマホのストレージというのは上記で説明したNAND+コントローラで構成されています。コントローラーというのはメモリー半導体(NAND)にデータの読み書きを指示するチップです。スマホ用にはeMMCとかUFSというタイプのNAND+コントローラが一つのチップに収まった複合製品が使われていますが、Appleは数年前から独自コントローラを持っていますのでNANDフラッシュのチップのみ(Raw NANDと呼ぶ)を調達しています(参考 “A secret iPhone 6s component no other phone has is responsible for huge speed gains“)。
ストレージの容量と価格差を語る上でこのRaw NANDだけを調達しているというのが非常に重要で、なぜかと言うとeMMCやUFSのような複合製品を買うとコントローラの値段やFWの開発費、アッセンブリの費用などの雑音が生のNANDフラッシュの価格に混じってしまうからです。一方でRaw NANDだけを買うのであれば純粋なNANDの値段だけを見比べることが出来るのです。
iPhoneに使われるRaw NANDの価格
Appleが調達しているNANDの価格を知ることは出来ません。知っていても書けません。ただ、大体の価格を推測することは出来ます、DRAM eXchangeというサイトを使えばね。
DRAM eXchangeについてはこれまでも本ブログで紹介しました。メモリーのスポット価格を見ることが出来るサイトです。詳しくは過去記事を御覧ください。

現在のスマートフォンには3D TLCというタイプのメモリーが使われています。3D TLCは現在256Gb、512Gbの2種類の容量帯がメインで流通しています。一方でiPhoneのストレージの容量帯は128GB、256GB、512GBです。
少しややこしいですが小学校で習うデータ容量の変換のおさらいです。
・1B(バイト) = 8b(ビット)
・1Tb = 1024Gb
つまり、256GB(=2048Gb)のストレージを作るには256Gbの3D TLC NANDを8枚使うか、512Gbの3D TLC NANDを4枚使う必要があります(計算式: 256GB = 256bx8枚 or 512Gbx4枚 = 2048Gb)。
DRAM eXchangeによると現在の3D TLC 256Gbおよび512Gbは下記の価格で取引されています。Wafer Spot Price(ウェハスポット価格)というのはRaw NANDの値段だと考えて下さい。
3D TLC 256Gb: Session High $2.95
→ ギガバイト単価 $2.95÷(256Gb÷8) = $0.092/GB
3D TLC 512Gb: Session High $5.10
→ ギガバイト単価 $5.10÷(512Gb÷8) = $0.079/GB
しつこいようですがiPhone 13は128GB容量が上がるごとに$100の追加課金でしたのでギガバイト単価は$0.78/GBとなります。これは上記のウェハスポット価格よりも8.42倍~9.8倍高いです。
更に言うとスポット価格は市場価格で、Appleのような大口顧客向けの価格よりも割高で取引されています。Appleは2020年の半導体購買代金世界一位の企業です(参考 “Gartner Says Apple and Samsung Extended Their Lead as Top Semiconductor Customers in 2020“)。そのような超大口優良顧客には上記のスポット価格よりもさらに割引された値段で販売されていることは確実でしょう。
一方でNANDのスポット価格というのはデイリーで変化します。市況が逼迫していれば高値になりがちでそれに合わせて大口顧客向けの取引価格も値上がりします。これ以上NANDの価格が更に上ることも有りえます。iPhoneの価格はそう頻繁に変えられませんので調達価格が上がればAppleのマージンは減ります。ただ、現在のメモリー半導体価格は高値圏にあるのは間違いないです(むしろこれから値下がり余地のが大きいかも)。
さらにWafer Spot価格というのはウェハの状態での取引価格です。Appleはウェハからチップに完成された状態で購入しているはずですので上記のWafer Spot価格に加えてパッケージングの代金が追加されています、微々たるものではありますが。
さらに、1つのチップにNANDを多く使えば使うほどパッケージの歩留まりが下がります(+128GBよりも+256GBのがベアチップの容量によっては製造が難しい)のでそのようなコストも鑑みると単純な計算はできないという点について申し上げておきます。
まとめ
以上、iPhoneのストレージに使われているメモリー半導体の解説と容量ごとの最終製品の価格差が割高禍どうかについて解説しました。
NANDのスポット価格から算出した単純な容量単価で見るとiPhoneのストレージ容量ごとの値付けは非常に割高ではあります。しかしAppleはAシリーズで知られる独自のSoCを開発したりストレージコントローラーなど様々な半導体を独自設計し投資しています。ソフトウェアも持っています。さらに近年スマホはコモディティ化してカメラやディスプレイ、ストレージの容量などが製品差別化のマーケティング戦略の一つにもなっています。半導体市場に大きく貢献しているのもApple様です。
そういったことを考えると256GBくらいは買っても良いんじゃないかと思います。
コメント
[…] iPhoneのメモリー容量別の価格差についてお世話になっています。 アップル(Apple)が9月14日にiPhone 13などの新製品を発表しました。 私はずっとアップルユーザーですし、半導体業界人とし […]