メモリ半導体大手のMicron Technology (マイクロン・テクノロジー: $MU)が2021年1月7日に2020年9月〜11月期の決算を発表しました。2021年に入って一発目の半導体大手の決算発表となります。
本記事ではMicronの決算発表を用いて最新の2021年メモリ半導体市況の見通しを考察したいと思います。
Micron(マイクロン)決算
まずはMicron(マイクロン)のQ1決算の結果を見てみます。
売上高: 予想 $5.66B vs 結果: $5.77B
EPS: 予想 $0.69 vs 結果: $0.71
前年比売上成長: 前年同期比 11% YoY
FQ2 ガイダンス: 売上 $5.8B ± $200M / EPS $0.75 ± $0.07

“Micron delivered outstanding fiscal first quarter results, driven by focused execution and strong end-market demand,” said Micron Technology President and CEO Sanjay Mehrotra. “We are excited about the strengthening DRAM industry fundamentals.
Micron Press Releaseより
▪ In early December, two separate events affected our Taiwan DRAM operations
⎼ A power outage at our Taoyuan facility on December 3
⎼ A 6.7-magnitude earthquake off the northeast coast of Taiwan on December 10, felt at both our Taoyuan and Taichung locations
▪ Investments made over the last few years in facilities’ redundancy and cleanroom control substantially mitigated the impact of these two events
▪ These disruptions have, however, reduced our available FQ2 DRAM supply and negatively influenced our costs in the short term
▪ The expected impact of these events is factored into our outlook
Micron(マイクロン)の過去の決算動向


収益性は改善か
FQ1 21のGross Marginは30.1%でメモリバブルが弾けた1年前同期のYoY +3.6%となっています。FQ2ガイダンスでも30%台を示しており、メモリ市場の底堅さを伺わせます。
Micron(マイクロン)自身、DRAM・NANDともに収益性の高いハイエンド市場に力を入れており、また、プロセス開発も積極的に次世代品に投資を続けています。
Micron(マイクロン)の事業部別結果
Micron(マイクロン)は事業部を下記の4つに分けています。
→PC・サーバー向けメモリ事業部
・Mobile Business Unit(MBU)
→スマホ向けメモリ事業部
・Storage Business Unit(SBU)
→スポットマーケット向けなどのSSDやNAND/DRAMコンポーネント
・Embedded Business Unit(EBU)
→コンスマー、ゲーム、車載、産業機器など
Compute and Networking (CNBU)
CNBUの20年9-11月期売上高は前年同期比29%増の$2,546Mでした。ただしQoQでは-16%の下落です。これは、2020年の前半に集中したサーバー顧客の設備投資の需要一服感とコロナのサプライチェーンの乱れでサーバー顧客が積み増していた在庫の影響と、在宅需要によるノートPC特需の反動ではないかと考えられます。
Mobile Business Unit(MBU)
MBUの20年9-11月期売上高はQoQ +3%およびYoY +3%の$1,501Mでした。5Gスマートフォンの販売好調が影響して売上増です(本来ならばもう少しQoQの伸びが大きいが、前QはHuawei駆け込み需要あり)。特にCQ3/CQ4はスマートフォン新規機種の立上りとクリスマスなどのプレゼント需要がありますのでシーズナリティ的にモバイルメモリ半導体の需要が強い時期になります。
Trend Forceによると2020年のWWスマホ出荷数は約12.5億台で、そのうち約20%が5G通信が可能なスマートフォンでした。2021年のWWスマホ出荷総数は13.6億台と予測されており、5Gスマホのシェアは約40%近くにまで上昇する見込みです
5Gスマホはメモリ半導体需要の底上げに寄与します。平均的な(?)4Gスマホの搭載DRAM容量が約6GBなのに対し、5Gスマホに搭載されるDRAMは約8GBと言われています。またストレージの容量上限も256GB〜512GBだったのが、1TB級のNANDを積んだスマホが登場してきています。
Storage Business Unit(SBU)
SBUの20年9-11月期売上高はQoQ 0%・YoY -6%の$911Mでした。これは特にスポットマーケット向けの売上となりますが、NANDは価格が下落基調にあります。
メモリ半導体のスポットマーケットについては過去記事を読んでいただければと思います。

Embedded Business Unit(EBU)
EBUの20年9-11月期売上高はQoQ +24%およびYoY +10%の$809Mでした。コロナで大打撃を受けた車載半導体とコンスマー向けメモリの回復に加えてPS5やXboxといった新型ゲームコンソールの売上が大きく寄与しているでしょう。
特に最新ゲーム機にはGDDR6というタイプの単価の高いGraphic DRAMが使われています。さらにPS5は内蔵ストレージをHDDからSSDに置き換えており、メモリ半導体TAMの底上げに寄与しています。また、仮想通貨のマイニングにも汎用GPUを使うことが知られておりますが、それらのメモリーもGraphic DRAMを使用します。
さらに車載売上も過去最高記録を達成したようです。特に2020年後半の自動車販売需要の回復と一台あたりの半導体搭載容量が増えていることが寄与したのでは無いでしょうか。

Micron(マイクロン)の製品別結果
続いて、Micron(マイクロン)の製品別結果を見ていきましょう。Micron(マイクロン)の主力は汎用DRAMおよびNANDのメモリ半導体となっています。
DRAM Q1 2021
・売上 -7% QoQ、+17% YoY
・Bit出荷 QoQ 1桁%前半の減少 *MicronはFQ4 20にBit出荷を増加させた
・ASPトレンド QoQ 1桁%中盤の下落*Bit出荷とはメモリ半導体の出荷個数数量を表現する際に用いられる。メモリ半導体といってもデバイスにより容量が異なるため、Gbitに換算して計算する。
例) 2Gb DRAM 100個+4Gb DRAM 200個のBit出荷=1000Gb (200Gb+800Gb)
NAND Q1 2021
・売上 +3% QoQ、+11% YoY
・Bit出荷 QoQ +10%台後半
・ASPトレンド QoQ -10%台前半
Micron(マイクロン)の決算と2021年メモリ半導体市況の考察
Micron(マイクロン)の決算を経て、2021年のメモリ半導体市況を考察していきます。
DRAM市況は21年を通じて強い
Micron(マイクロン)は2021年を通じてDRAM需要のBit Growth +10%台後半を予想しています。一方でMicron(マイクロン)自身のDRAM Bit GrowthはDemand成長率未満としています。現在DRAMのプロセスは10nm世代に突入しておりプロセスシュリンクが小刻みになったため、飛躍的なBit Growthは期待できません。これはDRAM大手のSamsungおよびSK hynixも同様であると思われます。このことからDRAMは2021年を通じて好市況(DRAMメーカーに望ましい)が続くと考えられます。なお、Micron(マイクロン)は1α世代のDRAM量産を2021年前半に行うとアナウンスしました。
アプリケーション別に見ると、DRAM市況は旺盛なサーバー設備通し及びスマホ出荷台数のリバウンド&5Gスマホシェアの倍増を背景にしていると考えます。特にCQ1は半導体の需要が季節的に弱いことで知られているのですが、DRAMの価格上昇により各顧客が在庫の積み増しに積極的になっており、引き続き積極的な需要が続くと思います。Business Koreaによると、12月の時点で各DRAMメーカーの在庫水準は適正水準である20日から10日水準まで半減しているとのことです。代理店などの市場在庫もほぼ、空っぽになっているのではないかと思います。
5Gスマホがメモリバブルを彷彿とさせる
個人的には5G Mobile DRAM需要が2017年〜2018年のメモリバブルを彷彿とさせます。2017年〜2018年にかけてスマホの出荷台数が伸びたことに加え、スマホ一台当たりのメモリ搭載容量が急増しました。あの頃は特に、ミッドレンジ以下と呼ばれる中価格〜低価格スマホが新興国を中心に普及したのですが中国スマホメーカーを中心に、これまでRAM 1GB + Storage 16〜32GB程度だったメモリ容量がRAM 2GB + Storage 32〜128GBと一台あたりのメモリ搭載容量が倍増しました。
背景を少し説明しますと、その頃すでにスマホ市場はコモディティ化していました。OSはAndroid or iOSの二択、チップセットもAndroidであればSamsungを選ばない限りQualcommかMTKもしくはAppleと言う形でスマホメーカーは馬鹿な消費者向けにわかりやすいメモリの容量とカメラの画質(特にセルフィー用のインカメラ)で差別化を図ったのです。
上述の通り、5Gスマホではスマホ一台あたりに搭載されるメモリの容量が増えます。これはもちろんスマホの高機能化に伴いSoCのメインメモリが増えるのもそうなのですが、5Gモデムにも別にDRAMが使われるらしいです。
下記のように2021年はスマホ出荷台数はリバウンドします、そして約40%が5Gスマホになるとのことですからスマホ需要は要チェックです(画像出典 Trendforce)。また、個人的にはHuaweiという巨大メーカーのシェアをOppo, Vivoなどの中華メーカーが狙っており、彼らはApple(自社OS+SoC)やSamsung(自社SoC)などの巨大なコンペを相手にわかりやすい差別化を図る必要があり、メモリ容量と増量攻勢を仕掛けてくるのではないかと考えています。
NAND市況は下期まで弱い
Micron(マイクロン)は2021年を通じてNAND需要のBit Growth +30%を予想しています。また、Micron(マイクロン)自身のNAND Bit Growthは30%をやや下回るとしています。ただし、Samsung、SK hynix (+Intel)、中国YMTCなどが2021年にBit出荷を増加させる見込みでメモリ業界全体としてはDemand Bit GrowthをSupply Bit Grwothが超す見込みでしばらくは供給過剰による単価の下落が続く見通しです。
製品テクノロジー別に見ると、3D TLC 128層の歩留まり向上、QLC品のRoll OutなどがNAND Supply Bit Gworthに寄与していると考えられます。しかしながら、NANDメーカーはある程度Capexを保守的に運用する見込みで、引き続き市場からの引き合いは強いため、2021年Q3頃を目処にNAND市況は改善するのではないかと予測されています。
ただし、上述の通りNANDはDRAMと異なりプレーヤーが多く、またSK hynixがIntelのNAND事業を買収することによりサーバーなどハイエンドSSDのシェアを一気に飛躍させます。このことからMicron(マイクロン)も焦りを感じているようでいち早く176層 3D TLCの量産開始をアナウンスしました。
Bit出荷を上昇させればシェアを上げることができ、シェアが命の汎用メモリに置いて非常に重要なのですが、一方で供給過剰を引き起こし、単価を下落させ収益性を悪化させるというパラドクスに陥ります。Micron(マイクロン)はもちろん超優良企業なのですが、SamsungやSK hynixが背景に持つ巨大な韓国財閥の資金力が無いため、その点では不利であると筆者は個人的に考えています。

まとめ
Micron(マイクロン)の決算結果とメモリ半導体市場の考察のまとめです。
・通常、需要の弱い季節であるCQ1も顧客の買いだめからDRAM各社在庫水準は低下
・5Gスマホの普及はメモリ需要を押し上げる。筆者個人的には2017-2018年のバブルを思い出す
・NANDは下期まで弱い、需要は増えるがそれ以上に供給成長が高い
・SK hynixのIntel NAND事業買収によるNAND寡占化など、競争環境は激化