パワー半導体勢力図を解説

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本記事ではパワー半導体と呼ばれる種類の半導体、パワー半導体市場およびパワー半導体メーカーの勢力図について解説いたします。

【この記事のポイント】
・パワーディスクリートが半導体デバイス総出荷額に占める割合は小さい
・パワーMOSFETとIGBTを中心に市場は拡大
・自動車、産業、データセンター等の分野で注目される
・SiCなど新素材の台頭も普及ハードルは高いが中長期では注目される
・規模が大きく、ポートフォリオも多彩な欧米の半導体専業メーカーが強みを持つ(かもしれない)
本ブログ上の記事はすべて公のメディア、調査会社の公開資料、半導体メーカー各社公表の情報(IRなど)のみを元に執筆しています。筆者が業務上知り得た情報(ロードマップや価格など)について言及したり、情報源として盛り込むことは一切ございません。また、情報の出典元はすべて正確に明記することを心がけます。
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パワー半導体とは

パワー半導体とは電源電力の制御や供給などを行う半導体です。半導体というと、CPUやメモリなどのド派手な奴らが注目を浴びることが多いと思います。実際に売上トップの半導体メーカーをみても汎用CPUやSoCメーカー(Intel・AMD・Qualcomm等)、メモリメーカー(Samsung・Micron・SK hynix等)などが名を連ねており、相対的に地味な印象を受けるかもしれません。ただ、パワー半導体市場は電気自動車などの用途の拡大と省エネという求められる機能(性能?)の観点からジワジワと拡大してきており、中長期で筆者が個人的に注目している市場です。

人間の体に例えるならCPUやメモリは「頭脳」であり、パワー半導体は「筋肉」に当たる。ちなみに、目や耳、口などがセンサーやスピーカー、マイクなどといえる。
EDN Japan 『パワー半導体の基礎知識』

パワー半導体に期待される役割

パワー半導体が近年注目される理由について少し述べてまいります。それは、キャッチーに言うとエコです。パワー半導体はシステムの中において電力をいかに効率よく供給するか重要な役割を持ちます。例えばエアコン等の家電にはパワー半導体が組み込まれたインバーターが使われており、これは細かにモーターの回転数を制御することが可能です。それにより、単純に電源のOn/Offと数段階のギア調整しか出来なかった時代の家電と比べると約30%も電力消費量が抑えられると言います(参考 ローム『パワー半導体』)。また、電力の消費が非常に大きいデータセンターにおいても需要が増加しています。

さらに、近年シェアが拡大しているハイブリッド車では電池に蓄えられた電力でモーターを駆動しますが、ここでも効率よくモーターを駆動させるためにパワー半導体が利用されます。これは電力消費というエコの観点ももちろんですが、車の航続距離という性能にも大きな影響を与えます。余談ですが、筆者は欧州在住なのですが、片道300kmを自分で車を運転して日帰り往復するなんてしょっちゅうあります。今はクリーンディーゼルのドイツ車に乗っていますが、燃費の良さと航行距離に満足しています。以前、筆者がウクライナに夏休みに遊びに行った時Uberを呼んだら日産のリーフにのってる運転手の兄ちゃんが来ました。運転手の兄ちゃんに『コレどのくらい走るの?400kmだっけ?』と聞いたら『いや、中古で結構乗ってるから120km位しかダメ』と聞いて『本当かどうか知らんがそれは酷だな・・・』と思ったことがありました。

ただ、私自身、次の車もPHEVを選びましたし、ハイブリッド車など、何らかの形でパワートレインが電動化する車体の新車販売割合は各国の環境政策が後押ししてることもあり、中長期で増えていくトレンドですので車載市場はパワー半導体が熱い視線を注ぐ分野の一つとなっています。

車載半導体市場を解説
車載半導体は2021年現在、半導体デバイス総出荷額の約10%程度しか占めませんが、半導体業界では非常に注目されている市場です。この記事ではパワートレイン電動化やADASといった観点から車載半導体市場の成長、また車載半導体のユースケースや代表的半導体メーカーについて解説します。

WSTS(国際半導体市場統計)による分類とパワー半導体

続いて、半導体デバイスの分類や機能、用途などの面からパワー半導体について解説いたします。WSTS(国際半導体市場統計)が定義する半導体デバイスの分類を見てみましょう(下記図はWSTS半導体製品分類資料を基に筆者が作成)。

WSTSによる半導体デバイスの分類のうち、パワー半導体はディスクリートに含まれるトランジスタやダイオードを指します。

ちなみに、上記の分類は明確に世界統一で用いられてるわけではなく、調査機関や半導体メーカーによっては多少異なる分類をしている場合もある(例えば電源ICなどをパワーICとしてパワー半導体に含める)のですが、本ブログではなるべくWSTSの定義に従うようにしています(それが正しいとかそういう意味ではないです)。上述したハイブリッド車のインバーターなどにはもちろんディスクリート半導体だけでなく、制御するパワーICもたくさん含まれるのですが、本記事ではパワー半導体≒パワーディスクリート半導体という定義で書かせていただきます。

パワー半導体の機能と品種

パワー半導体と簡単に言ってもいくつかの機能と品種がございます。簡単に例を取り上げて説明します。

パワー半導体の機能

パワー半導体の機能は下記の4つに分類されます(参考: EDN Japan 『パワー半導体の基礎知識』)。

・インバーター: 電気を直流→交流に変換
・コンバーター: 電気を交流→直流に変換
・周波数変換: 交流の周波数を変換
・レギュレーター: 直流の電圧を変換
ディスクリートパワー半導体製品としては上記いずれか一つの役割をもつ素子(ディスクリート)で、電力の制御や供給を行います。一般的にはダイオード、トランジスタ、サイリスタなどを指します。本記事ではボロが出るのでサラッとした解説に留めます、詳しくは下記のリンクなどを御覧ください。

パワー半導体の品種例: ダイオード

電気の流れを一方通行にする機能をもちます。代表的な用途として一般電源である交流から直流に変換したり、逆流の防止をします。主に安定した電源供給のために用いられます。

ダイオードの電気の流れを水の流れにたとえてみると、アノードはいわば上流側、カソードは下流側。上流から下流へと水は流れますが、下流から上流には流れない…。これがダイオードの整流原理です。
ローム『ダイオードとは?』

パワー半導体の品種例:トランジスタ

電気信号をOn/Offにするスイッチング作用や弱い電気信号を強い電気信号に変える増幅作用を持ちます。MOSFETやIGBTなどが当てはまり、例えば電気自動車や家電のモーターの回転数を制御するインバーターなどに使われます。なお、パワー半導体市場の金額の殆どをMOSFETとIGBTモジュールが占めています。

トランジスターは、弱い電気信号を強い信号に変える増幅器としての役割や、電気信号の流れを高速に ON/OFF するスイッチとしての役割を果たす小さな電子素子です。
(Intel 『トランジスターの仕組み』)

その他

その他の品種・細かい分類については下記のサイトなどをご覧ください。

パワーデバイスとは?用途や種類、特性について

パワー半導体市場

続いて、パワー半導体の総市場規模、デバイス別市場規模、アプリケーション別市場規模について解説いたします。

パワー半導体の市場規模

WSTSの2020年秋季半導体市場予測によると2020年の半導体デバイス総出荷額は約4330億ドルで、そのうちパワー半導体がカテゴライズされるディスクリート半導体市場は236億ドルと約5.4%を占めています。ディスクリート半導体はロジックやメモリに比べると非常に単価が低く、個数はでても金額的にはパッとしません。ただ、後述のIGBTモジュールなどは単価が高くなっており、パワー半導体市場の金額嵩上げに貢献しています。

また、矢野経済研究所の調査によると2020年のパワー半導体市場は約170億ドルと予測していました。これは昨年7月に発表された統計であり、調査時期がコロナのインパクトを大きく受けていたボトムの時期であったことであったり、一部のディスクリート半導体をカウントしていないなどがWSTSとの金額の乖離の要因だと思うのですがそれにしても乖離が大きいのが気になります。下記ではパワー半導体の市場規模推移を示します(データ出典『矢野経済研究所 – パワー半導体の世界市場に関する調査を実施』を基に筆者がグラフを作成)。2019年から2025年までのCAGRは約4%です。ちなみに、PMICなどのパワーICはだいたいパワーディスクリートと同じくらいかそれより大きいくらいの規模です。

パワー半導体の需要

パワー半導体の需要元は主に以下のセグメントに分類されます(Yole Développementの調査を基に筆者がグラフを作成)。半導体デバイス全体のTAMを牽引しているのはスマホ及びPC・サーバー市場がそれぞれ3割ずつ程度なのですが、パワー半導体だとそれらの市場は14%のみです。赤のモーターは空調システムなどのインバーターに使われるIGBTモジュールです。Othersは割合がやけに高いのですが、オレンジのIndustrialはMOSFETだけのようなので、コンスマーとUPS(無停電電源装置)やPower Supply等が含まれているのだと思います。Infineon社の決算資料を基にIndustrial市場がパワーディスクリートに占める割合を計算するとだいたい30%ほどでした。なので、パワー半導体市場における車載・Industrial市場は存在感が大きいと言えるでしょう。

しかし、2025年には車載と産機分野で28%までの比重に成長する予測です。特にパワートレインの電動化に伴いIGBTモジュールの出荷増が期待できる車載分野の伸びが大きいでしょう。

パワー半導体のデバイス別出荷金額シェア

パワー半導体の出荷金額のうち約40%をシリコンMSOFET、約24%をIGBTモジュール&IPMが占めます(下記は富士経済のデータを基に筆者が作成)。その他にはディスクリートIGBT、ダイオードやサイリスタなどが含まれています。

Power MOSFET

MOSFETはコンスマーや車載、産業機器などの幅広い市場で多く採用されているパワー半導体です。

特に最近、旺盛な投資が顕著なデータセンターや5G設備ではシリコンMOSFETが多く使われます。4Gの基地局から5Gの基地局になると、高周波化に伴い搭載されるパワー半導体の金額が数倍になると言われています。

5G基地局はMOSFETやダイオードの搭載金額が4G基地局搭載金額の数倍であり、5Gの普及拡大がパワー半導体市場を押し上げると考える。
(矢野経済研究所『パワー半導体の世界市場に関する調査を実施』)

車載市場においてもMOSFETは多く使われます。パワーウィンドウやワイパーなどのモーターの駆動やエアコンやランプ、エアバッグなどのECUの電源など様々な用途があります。ただ、2020年はコロナウィルスの影響により自動車市場が冷え込みましたので、出荷金額にマイナス影響を及ぼしたようです。

Power Module

Power ModuleはIGBT ModuleとIntelligent Power Module (IPM)の2つを指すことが一般的です。

IGBT Module

IGBT Moduleは車載及び産業機器分野に多く採用されています。MOSFETと比べて大きな電力領域で使われ(かつ高温で過酷な環境)、もともとは鉄道などの産業機器市場で使われていましたが、近年ではハイブリッド車やテスラのような完全電気自動車のパワートレインにおいても使用されており、車載市場の伸びが期待されます。Infineon Technologiesの決算資料によると、パワートレインの電動化により特に大きな金額的メリットを享受できる部分です(下記グラフxEV Power Trainに該当)。Yole Instituteによると2019年から2025年でIGBTモジュールはCAGR 18%の成長が期待されています(同期間のパワーディスクリートCAGRは約4%)。

Intelligent Power Module (IPM)

これまで話してきたIGBTやMOSFETはディスクリートと呼ばれる個別素子です。これらのディスクリート半導体にOn/Offなどの制御の機能や異常な温度を検知して保護する機能持つICを組み合わせた製品をIntelligent Power Moduleと呼びます。IGBTやMOSFETといったディスクリート・パワー半導体が筋肉であれば、筋肉の動きを制御するICがIPM上に載っているような感じです。

次世代パワー半導体のシェア

ほぼすべての半導体はシリコン(Si)を使っています。しかし、近年はより良い電力効率を発揮できたりモジュールの小型化・軽量化が期待できるSiCやGaNといった素材で作る次世代パワー半導体も注目されています。詳しくは先のリンクを読んで頂ければと思いますが、シリコンで作るパワー半導体では性能の限界が近づいていることが次世代パワー半導体の開発をすすめる理由です(参考 EDN Japan『シリコンよりも優れた半導体材料でパワー半導体を作る』)。

富士経済によると2019年時点でのSiC/GaNといった次世代パワー半導体の出荷額は約4.3億ドルでしたが、2030年には27億ドルと約6倍に成長すると予測されています。

ただ、先の図に示したとおり、これらの次世代素材がパワー半導体の出荷額に占めるシェアはまだまだ1桁%台と微々たるものです。その中でも金額が大きいのがSiCは、現在Industrialマーケットメインに使われていますが車載マーケットにおける注目も増加しています。ただ、筆者自身も欧州の車載半導体市場に身をおいておりますので特にSiCパワー半導体に関して話は上がるのですが、特にコストの観点などまだまだ普及におけるハードルは高いと感じています。また、シリコンという素材自体の性能の限界に近づいてはいても、パッケージ内の構造やパッケージの素材などに改良を加えることでチップとしての性能の向上は続いています。

Digi Timesによると2025年までに車載分野におけるSiCパワー半導体のシェアが25%まで伸びるという予測がされています。SiCパワー半導体モジュールは特にSiに比べて単価が高いのはたしかなのですが、一方でまだまだ供給量には制限があったり、Tier 1・OEMともに積極的に採用を促しているわけでもなさそうなのでどこまで実現可能な予測かはわかりません。産業機器であれば設備投資の一貫になりますが、自動車は結局一般消費者が購入する製品なので、どこまでBOMコストの上昇が許容されるのか、まだまだ未知数です。

ただ、中長期目線で抜群の成長率を誇ることは確かですし、10年で6倍の市場成長を達成するにはこのくらいのスピードが必要かもしれません。

パワー半導体メーカー勢力図

Infineon Technologies FY20 Q4 IRを参考にパワー半導体(パワーIC含まず)のメーカー別出荷額シェアを円グラフにしました。

パワーディスクリート市場はメモリやロジックのように大きな市場規模を一部の大手メーカーが寡占している市場と異なり、比較的に市場規模が小さいにもかかわらず、多くのプレーヤーが混在していることがわかります。

車載市場におけるパワー半導体メーカー別シェア

市場の成長が期待できる車載分野に限ったパワー半導体のシェアをグラフにすると下記のようになります。やはり、ドイツのInfineon Technologies (Infineon)の強さが目立ちます。三菱のように内製しているところもあるのですが、トップのInfineonやST Microelectronics (STM)は半導体専業メーカーでキャパも拡張しており、増える市場、様々な顧客からの引き合いに対応できる供給力を考えるとやはり中長期でシェアを拡大する意味では強いと考えられます。

産機市場におけるパワー半導体メーカー別シェア

産機市場におけるパワー半導体のうち、最も比率が大きいIGBTモジュールの勢力図は下記のようになっています。Infineonは相変わらず強いですが、三菱や富士電機と行った日本勢もなかなか存在感が強いです。4位のSemikronはドイツのメーカーです。

IPMパワー半導体メーカー別シェア

IPMのシェアは三菱とON Semiconductorが強いです。IPMはパワーモジュールでも後発と呼ばれていましたが、既述の通りパワーディスクリート半導体を管理するICも搭載されており、よりハイエンドです。

MOSFET パワー半導体メーカー別シェア

パワー半導体市場の40%を占めるのがMOSFETだということについては説明いたしました。MOSFETに限ったメーカー別シェアを見てみるとやはりInfineonとON Semiconductorの強さが目立ちます。反対にIGBTでは存在感を発揮していた三菱の名前が見当たりません

SiC パワー半導体メーカー別シェア

最後に、次世代素材のうち最も市場規模が大きいSiCパワー半導体のメーカー別シェアを見てみます。あまりメーカー別のシェアを提示している資料が見つからなかったのですが、J-Chip Consultingという会社が下記のような推測をしています、大まかに間違ってはいないかなという感覚です(おそらく各社の決算発表資料など読み込めばわかるのでしょうが・・)。

欧米系トップシェア3社の強み

三菱や富士電機、ロームといった日本のメーカーがパワー半導体において強みを持っているのは確かなのですが、個人的にパワー半導体というとやはりInfineon、ON Semiconductor、STMなどを思い浮かべてしまいます。これは筆者自身が今まで置かれてきた環境や、現在欧州に住みEMEA市場で働いているのでバイアスが掛かっているかもしれませんが・・。

個人的にこれらの欧米企業に注目する理由を述べていきたいと思います。

供給能力

2021年1月現在、車載市場を中心に半導体の供給不足が連日ニュースで取り上げられるようになりました。TSMCに生産委託する一部の製品がスマホやサーバー市場に生産キャパを取られているという見方が強く、私自身もそれには賛成ですが、一方でパワー半導体のような製品も供給が逼迫しています。

今まで示してきたように、今後のパワー半導体の需要の成長が期待できても、それにあわせた供給をすることが出来なければ市場成長の恩恵を受けることは出来ません。パワー半導体の生産能力でいうと、InfineonやSTM、ON Semiconductorの持つ供給能力は圧倒的です。

例えば半導体のウェハは現在300mmと200mmが主流(一部150mmなどもまだあり)なのですが、メモリーやロジックが300mmで製造されるのに対して、パワー半導体は基本的に200mm口径のウェハで製造されます。基本的には同じプロセスで歩留まりが同一であれば、ウェハのサイズが大きいほどウェハ一枚あたりの取れ高は多くなるので供給能力は上がります。

パワー半導体の300mmウェハ生産でいち早くリーダーシップを取っているのはInfineonでドイツのドレスデンとオーストリアのフィラッハに300mmのラインを持っています(参考 『メガトレンドに沿って 拡大するパワー半導体市場』)。現在150mmや200mm口径のウェハで生産しているパワー半導体を300mmラインに移管することで供給能力が上がります。また、SiCパワー半導体は150mmのウェハで生産することが主流なのですが、300mmにSiパワー半導体の生産を移管することで150mmラインに余力が生まれ、市場の拡大が予測されるSiCパワー半導体の供給能力にも余裕が生まれます。特にSiCやGaN等の次世代素材半導体は急速な市場拡大に伴いファブレス・ファウンダリモデルの台頭も予想されていて、一部の大手IDM vs ファブレス・ファウンダリという構図になるかもしれません。

Infineonに続いて300mm大口径化をすすめるのはON SemiconductorやSTMといわれています。ON SemiconductorはGlobal Foundriesの300mmラインの買収を発表しましたし、STMも300mmラインをイタリアに建設しています。ただし、日本勢もデンソーや東芝が300mmラインの検討を進めていたり、三菱もファウンダリを使用した300mmラインでのパワー半導体生産を検討していると報じられているのは確かです。

製品ポートフォリオ

InfineonはMOSFET・IGBTディスクリート・IGBTモジュールなどの主要セグメントで高いシェアを持っています。また、ON SemiconductorもIPMなど付加価値が高い市場で高いシェアを持っていますし、STMも伸びが期待できる車載分野に強いです。

また、これらの企業はパワー半導体以外のポートフォリオも豊富です。InfineonとSTMはマイコン市場でも高い存在感を発揮していますし、ON SemiconductorはInfineonとともにセンサーに強いことも知られています。また、3社ともアナログのシェアは高いですし、InfineonはCypress Semiconductorを買収し、マイコンやメモリのポートフォリオを増やしました。

特に車載市場はパワーだけでなくセンサーやマイコン、アナログやメモリなど様々な品目の半導体を使うことになりますので、顧客に対して包括的なソリューションを提供することができるのは強みになると言えるでしょう。特にマイコンなどを使用する場合、そのパフォーマンスを保証するために周辺に使うパワー半導体やPMICが指定(リファレンス・デザイン)されていることがあります。自社でマイコンなどを持っていれば、当然自社のパワー半導体をリファレンスに含めますので、囲い込みをすることが可能です。欧米メーカーに限らず、日本のルネサスなんかもこの観点から言うと多彩なポートフォリオを揃えていると言えるでしょう。

その他先行投資

個人的に面白いな、と思って見ているのがInfineonのSiCの生産技術に対する投資です。上述の通り、SiCは電力効率やモジュールサイズの小型化、つまりシステムの小型化・軽量化の観点から期待されている新素材ではあるのですが、コストなどの面が現在ボトルネックとなっています。

Infineonは2018年にSiCウェハ分割の特殊技術をもつSiltectraという企業を買収しています。通常半導体のウェハはインゴットと呼ばれる塊の状態からダイヤモンドのワイヤソーで切り出すのが一般的だったのですが、その方法だと削り出しの過程でウェハ材料の損失が発生してしまうらしいのです。Infineonが買収した企業はCold Splitという技術を持っており、ダイヤモンドワイヤソーの代わりにレーザーを使いウェハの処理を行い、損失を最小限に抑えることでコスト競争力の向上が期待できます。

インフィニオン テクノロジーズは、ドレスデンを拠点とするシルテクトラ GmbHを買収しました。このスタートアップ企業は、材料の損失を最小限に抑えながら結晶材料を効率的に処理する、独創的なテクノロジーであるCold Splitを開発しました。インフィニオンはシリコンカーバイド(SiC)ウエハの分割にCold Splitテクノロジーを使用し、それによってウエハから得られるチップ数を2倍に拡大する計画です。
『インフィニオン、シリコンカーバイド専門企業のシルテクトラを買収』

ただ、一方で半導体装置メーカー大手のディスコもKABRAという似たような技術を有しているようで、他のパワー半導体メーカーもSiCの生産ラインにこのような装置を納入すればSiCパワー半導体自体の単価が長期的には下がり、普及が広がっていくのでは無いでしょうか。

まとめ

以上、パワーディスクリート半導体の市場規模、セグメント別市場動向、メーカー別勢力図について説明いたしました。

パワー半導体が半導体出荷額に占める割合は小さいですが、中長期での市場成長は右肩上がりです。特にパワートレインの電動化に伴い車載分野の成長率が顕著で、またSiCなどの次世代素材の市場拡大も長期では期待できます。

また、パワー半導体市場はメモリや汎用CPUなど、巨大市場を片手で数えられるくらいの大手数社が寡占している市場とは異なり、小さな市場に比較的多数のプレーヤーがひしめき合っています。そのような状況下において、供給能力に優位性を持ち、製品ポートフォリオも多彩な半導体専業メーカーは中長期のメガトレンドに合わせてシェアを伸ばしていくことが期待できると考えています。

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