2021年Q1 車載半導体大手各社の業績

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2021年Q1(1-3月期)の車載半導体各社の業績まとめ記事です。

【この記事のポイント】
・車載半導体各社は、回復基調にある
・とはいえ、泣くほど儲かっていない利益率水準
・車載半導体の利益率は低いが、パワー・アナログ等に取っては重要な成長市場
・EV化の加速やADASの進化により、これからも車載半導体需要は増え続ける
・足元の需要は強い、二重発注など実需以上の発注に対する対策も様々な手で施されている

厳密な『車載半導体メーカー』という定義はありませんが、売上に占める車載半導体比率が高い会社、または車載半導体を注力事業として謳っていたり車載半導体市場におけるシェアが高い会社を取り上げた前回記事を踏襲することにします。

車載半導体大手各社の2020年決算振り返り
2021年2月現在、車載半導体の供給不足から車大手各社の減産などがニュースになっています。本記事では2020年の車載半導体大手6社(Infineon, TI, STM, NXP, ルネサス, ON)の四半期決算を振り返り、コロナが車載半導体市場に与えた影響と2021年の車載半導体市況を考察します。
【本記事で取り上げる車載半導体メーカー】
・Texas Instruments (テキサス・インスツルメンツ / Ticker: TXN)
・Infineon Technologies (インフィニオンテクノロジーズ / Ticker: IFNNY)
・ST Microelectronics (STマイクロ / Ticker: STM)
・NXP Semiconductors (NXP / Ticker: NXPI)
・Renesus Electronics (ルネサス)
・ON Semiconductor (オンセミ / Ticker: ON)
上記各社の車載半導体におけるセンサーやパワー、マイコンなど品種ごとのシェアの位置づけは、下記の図を御覧ください(画像はInfineon Technologies Second Quarter FY21より引用)。
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2021年Q1車載半導体大手6社の売上とYoY売上変化率

大手6社の2021年Q1(1-3月期)の売上の結果です。通貨はすべて米ドル換算で、インフィニオンとルネサスについてはユーロ・日本円それぞれの決算資料で明記されている対米ドルレートを使用して換算しています。

6社全てが、全社売上・車載売上でYoYのプラス2桁成長を達成しています。特に車載比率が大きいドイツのインフィニオンは+45%と大幅な増収となりました。なお、TIについては四半期決算資料で細かい事業部別売上内訳が発表されていないため、過去のトレンドと決算コールの内容から車載売上比重を約20%と推定しています。

大幅な増収の背景は、周知の通り半導体市場における供給を上回る強い需要によるものです。特に、車載半導体は電動化とADASの普及・進化により日を追う毎に1台あたりに搭載される使用量が増えていきます(下記図はASML 2021 Shareholder Meetingより引用)。

一方で、コロナウイルスの世界的大流行は2020年の2月末頃から騒がれ始め、車を含む様々な製品の需要が急激に減りましたのでその凹みに対する比較が容易になったという背景もあると考えられます。

各社の車載売上・営業利益の過去2年の四半期ごとのトレンド

続いて、車載半導体メーカーの過去2年の車載売上・営業利益率・営業利益の四半期ごとのトレンドについて少し詳しく見てみます。ただ6社全てが細かい数字を発表しているわけではなく、ここでは決算資料で事業部別ブレイクダウンの数字が公表されているSTマイクロ・インフィニオン・ルネサスに絞ります。

各社の車載売上と営業利益率の推移

まずは、三社の四半期ごとの売上と営業利益率の推移です。なお、ルネサスのみNon-GAAPでの各事業ごとのブレイクダウンが公表されています(資料引用 STMInfineonルネサス各社決算資料)

【表の見方】
棒グラフ青→車載半導体に限った売上額
棒グラフ緑→それ以外の売上額
折れ線グラフ緑→各社の全体の営業利益率
折れ線グラフ青→各社の車載に限った営業利益率

車載事業の営業利益率は、全体の営業利益率に比べて、低いことがわかります。車載半導体と言っても、使っている素材や製造プロセスに大きな違いは無いのですが、車という部品一つの欠陥が人命に関わる重大な事故に繋がりかねないアプリケーションに使用されているため、厳しい歩留まり・品質・特殊な管理・そして比較的大きなリソースをかけなければならず、それに加えてOEM→Tier 1とコストダウンのプレッシャーが強いため車載半導体はどうしても儲かりにくい環境にあります。

特に世界的に新車の販売台数と製造台数が落ち込んだ2020年Q2/Q3のコロナ禍におけるSTMとInfineonの業績の落ち込みが激しいです、InfineonのQ2車載事業は赤字転落しています。一方でルネサスの受けている打撃は比較的軽微です。これらの違いは、InfineonとSTMは特に新車市場の落ち込みが激しかった欧米におけるシェアが高いのに対し、ルネサスは日本や中国などアジアでのシェアが高いこと、そしてそもそもルネサスは前年度比較が比較的に容易であることが原因だと考えます。

それでも車載半導体を続けるのは、市場の拡大がまだ始まったばかりであること、特にマイコン・アナログ・パワー半導体メーカーにとっては大きな市場になること(半導体の需要の約6割を汎用メモリと汎用ロジックが占めるが、彼らのメイン市場はデータセンター・PC・スマホ)さらに製品サイクルが長く参入障壁も高い為、一度入ると長期間に渡り安定的な受注が得られる事などが挙げられると言われています。

ちなみに、Mobileyeを買収し、自動運転に注力するIntelの車載事業はこんな感じです。まだまだ採用例は少ないので売上のカサは小さいです。自動運転の採用が進んでいる欧州メーカーのシェアが高いので、コロナで大きな打撃を受けたことが推察されます。

各社の売上とYoY変化率

続いて各社のYoYの売上変化率です。車載半導体は2019年のQ1からYoYで下落基調が続いており、さらにコロナにより急速な売上ダウンとなりました。しかし20年のQ3/Q4から現在まで急激な復調基調が続いています。

【表の見方】
棒グラフ青→車載半導体に限った売上額
棒グラフ緑→それ以外の売上額
折れ線グラフ緑→各社の全体の売上成長率 YoY
折れ線グラフ青→各社の車載に限った売上成長率 YoY

コロナ禍からの急速な回復も気になりますが、個人的に注目に値するべきだと考えるのは2019年通じて売上成長が前年比で軟化していたことです。この理由は2018年が半導体バブルの年だったからだと考えられます。あの頃は主にメモリが主役となっていました。しかし、生産量が桁違いに大きい汎用メモリメーカーがウェハなどの部材を大量確保したことで、その他の半導体メーカーも部材確保が困難になり、結果的に調達リスクを減らすために顧客が需要を先食いしたり、場合によっては二重発注をかけたことで、在庫消化や二重発注のキャンセルのツケが2019年に回ってきて需要が落ち込んだことが考えられます。そうすると、今回も将来的に同様なリスクが付きまとうことが考えられますが、これについては後述いたします。

各社の営業利益とYoY変化率

最後に、各社の営業利益とYoY変化率について見ていきます。

【表の見方】
棒グラフ青→車載半導体に限った営業収益
棒グラフ緑→それ以外の営業収益
折れ線グラフ緑→各社の全体の営業収益成長率 YoY
折れ線グラフ青→各社の車載に限った営業収益成長率 YoY
大きなトレンドとしては、やはり売上の鈍化に伴い2019年から収益性も下落基調、コロナで追い打ちをかけるように、特に車載ビジネスの収益性が悪化、その後底打ちし現在は前年比比較で急回復を見せている、といった状況です。
ルネサスは2020年のQ1が突出した数字になってしまっているので変化率のグラフが見にくいですね、すいません。

その他・Q1車載半導体市場における主要トピック

その他、個人的に大事だなと思う主要トピックについて簡単に記述します。

二重発注・キャンセルについて

上述したとおり、2019年の半導体市場は通年で軟調でした。これは2018年末にピークを迎えた半導体バブルの反動で、そのときはメモリが主役でしたが、生産量が桁違いに多いメモリメーカーが部材をかき集めたりすることでその他の半導体メーカーの部材調達にも影響が出た結果、顧客が需要の先食いをしたり二重発注をかけたツケが回ってきたという考察をしました。

2021年5月現在、半導体の需要はとても強く、作っても作っても、出荷しても出荷してもモノが足りないといった状況にあります。となると、顧客の発注数量の中には前回同様二重発注であったり、在庫の積み増し分があるのでいつか同じようなことになるのではないか、という懸念が生じると思います。私自身、業界人なのでこの辺のことは詳しくはかけませんが、今回の市況は強い実需を伴っていること、そして二重発注の対策がかなり念入りにされていることをヒシヒシと感じています。

以下、決算コールなどを基に公表されている範囲でヒントになりそうな部分について記述します。

Texas Instruments – Q1 2021 Earning Calls

下記はTexas InstrumentsのQ1決算のEarnings CallのTranscriptの抜き出しです。重要な部分について簡単な日本語訳でのまとめを載せておきます。

・Q2のQoQ売上成長が弱いように見えるが、キャンセルやPushアウトはあるのか?
→そのような傾向は無い、単にQ1の売上が強かった・半導体メーカーは場合によって1年先までキャンセル不可の発注を基本とするところもある
→TIは顧客にそのようなキャンセル不可の発注を押し付けていない・すべての受注に対して選別せず、出荷するのか?(二重発注の危険は?)
→TIは直販化を進めており現在代理店は世界で2社のみ、2/3の売上が直販
→直販化することで、顧客の実需要をつかめることができる、複数の代理店からの二重発注を防ぐことができる

Christopher Brett Danely Citigroup Inc. Exchange Research – Research Analyst So Q1 clearly was very strong, well above seasonality and above guidance. However, your sequential guidance at flat is well below seasonality. So my question is, are you guys seeing cancellations and pushouts? Or why the such weak guidance after a strong Q1?

Dave Pahl Texas Instruments Incorporated – Head of IR & VP
Yes. Chris, yes, thanks for that question. We aren’t seeing cancellation or pushouts. I’d just say that if you look to your observations, Q1 was very strong, both sequentially and year on year. So at the midpoint, second quarter will be a strong quarter from a year-on-year standpoint.

Ambrish Srivastava BMO Capital Markets Equity Research – MD of Semiconductor Research & Senior Research Analyst
Just a question on the order patterns that you’re seeing guys, many of your peers have talked about no cancellations policies, facets of the business we haven’t seen in — you could say never. But are you seeing that, that customers are looking for commitments to capacity? And then as a result, you’re having to change your clauses with the customers in terms of cancellation policy or what have you? Are there any changes on that front?

Dave Pahl Texas Instruments Incorporated – Head of IR & VP
Yes. So we don’t think that, that’s a good idea to go down that path to force customers to tell us what they need a year from now. I don’t — you can demand that they tell you what they need in April or May of 2022, but I can assure you they don’t know what they need a year from now. We really want to be in a position where we can supply them what they need and be a supplier that they can count on as well.

Stacy Aaron Rasgon Sanford C. Bernstein & Co., LLC., Research Division – Senior Analyst
Okay. I’ll use the follow-up. How are you parsing the quality of the orders that you’re getting? Or are you just shipping whatever is being ordered at this point?

Rafael R. Lizardi Texas Instruments Incorporated – Senior VP of Finance & Operations, CFO and CAO
Yes. I’m glad you chose that one as a follow-up. I’ll just highlight, as you know, we have moved away from distributors over the last couple of years. Really, it’s been more of a 10-year process. But in the last few years, more — we pulled the trigger and actually no longer ship into many distributors that we used to. And now we’re going direct with a lot of our customers to the point where we exited last year with almost two-thirds of our revenue shipping direct. That has put us in a great position, particularly in the current environment because we now have more direct access to those customers. We have a better understanding of what they really need. We have — we don’t have that intermediary in between, frankly, clouding things up as, frankly, as the way it happened a lot with the distributors. So then we use that information to better allocate our resources, both inventory, manufacturing, et cetera, in order to fulfill demand from our customers.

TI Q1 21 Earnings Call Transcript

Microchip – Q1 2021 Earning Calls

一方で、Microchipという半導体メーカーでは下記のように部材確保やキャパ確保、将来の投資計画といったことを理由に1年間のキャンセル不可の発注で縛りをかけキャンセルによる出荷額の急落を防ぐメーカーもあります。

TIのように垂直統合で自社生産を行い比較的自由に品種の生産ミックスができるメーカーと、ファブレスもしくは一部の製品をファウンドリに製造委託しているファブライト企業で対応の差が異なるのでは無いかと思います

個人的には、このような1年という長期のキャンセル不可発注をさせることで、顧客側も需要計画と発注に慎重になり、必要以上の数量を乱発しなくなり結果的に実需と最低限のセーフティ在庫だけが発注される効果があるのでは、と考えています。

In response, we launched our Preferred Supply Program (PSP) to provide customers with supply priority beginning 6 months after their order in exchange for at least 12 months of non-cancellable orders. Customer response to the program has exceeded our expectations with direct customers and distributors alike. About 44% of our backlog is now in the PSP category, although it is almost 100% of our backlog in some of the most constrained capacity areas. This gives us a solid foundation to enable us to prudently acquire constrained raw materials, invest in expanding factory capacity, and hire employees to support our factory ramps.”
MCHP Announces Record Financial Results for Q4 and FY21

Skyworksがシリコンラボのインフラ・車載半導体部門を買収

その他の車載半導体関連のトピックとしてSkyworksがシリコンラボのインフラ・車載部門の買収を発表しました。ケータイや基地局等、5Gの恩恵を受けているSkyworksですが、将来の成長の布石として、車載半導体事業の強化を決めたのでしょう。一方のシリラボはIoTや家電に注力するとのことです。

米シリコンラボ、インフラ部門をスカイワークスに売却
….売却対象には電気自動車(EV)向け半導体などの製品や知的財産、関連従業員350人が含まれる
引用 – ロイター

まとめ

以上、車載半導体各社のQ1決算結果とコロナ禍の2020年、その前の2019年の過去2年の四半期ごとの業績のトレンドを振返りました。

・各社、地域ごとにシェアが異なるため波は多少異なるが、回復基調
・二重発注やキャンセルによる需要の急激な落ち込みの対策もされている?
・車載半導体はなかなか、儲からない
・それでも特にパワー・アナログ・マイコンなどにとっては重要な拡大市場
・EV化の加速やADASの進化により、これからも需要は増え続ける

 

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