半導体製造装置を作るための半導体が足りない

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お世話になってます。

先日、日刊工業新聞電子版さんのツイートにコメント付きRTする形でこんな事を呟いたら思いの外、拡散してしまいました。リツイート2,500超え、イイネ3,700超えって私の12年のツイッター歴で初めての快挙です。不特定多数が見るインターネットで人様の注目を集めたのは中学の頃Yahoo知恵袋の質問で炎上させコメント1,000件集めた以来のことだったと思います。高校時代はmixiをやっていましたが日記に付いた最多イイネが75件(高校卒業の日の日記)だったので長い冬が終わった感じです。

『半導体不足なので半導体を増産するために半導体製造装置を買いたいけど、半導体製造装置に使われる肝心の半導体が足りなくて半導体製造装置が作れない、結果なかなか半導体が増産できない』

ってトンチみたいな話なんですが、たくさんの方が興味を持ってくださったので本記事では

・半導体製造装置メーカーが半導体の調達難に陥っている背景
・半導体製造装置メーカー向けに半導体メーカーは半導体の出荷を優先できないのか?
・半導体製造装置メーカーと半導体メーカも因果応報なのでは

という点について解説してみようと思います・

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半導体製造装置市場は空前の好況

2021年に入り半導体製造装置市場は空前のブームに沸いています。

SEMIは2021年4月13日(米国時間)、半導体製造装置(新品)の2020年世界総販売額が、過去最高の712億米ドルになったと発表した。2019年の598億米ドルに比べ19%の増加になる。
引用『EETimes Japan – 半導体製造装置市場、過去最高の712億米ドル』

SEMIによると、半導体製造装置市場は2023年まで右肩上がりの出荷額成長を続ける見込みとなっています(下記グラフはSEMIの発表を基に筆者が作成)。

半導体製造装置市場については筆者の過去記事も合わせて御覧ください。

FY20半導体製造装置メーカーの決算振り返りと今後の考察
半導体製造装置メーカーのうち、特に前工程の製造プロセスにおいて使用される大手3社の2020年の業績の振り返りと今後について考察をいたします。 この記事で取り上げる半導体製造装置メーカーはApplied Materials、ASML、Lam Researchの3社です。

半導体製造装置メーカーも部材調達に苦労している理由

本題に入る前に、私自身は半導体製造装置メーカーと働いたことが一切無いので、ある程度私自身の推論が入ることを断っておきます。その上で半導体製造装置メーカーが部材調達に苦労しているは

・半導体製造装置の需要が増大していること
・半導体製造装置には多くの特殊用途向け半導体が使われていると考えられること
・半導体の顧客としての半導体製造装置メーカーの影が薄いこと
・半導体製造装置メーカーとその顧客の半導体メーカーの発注に問題は無かったのか?
と勝手に考えています。車載半導体不足が取沙汰されていますが、突き詰めると同じようなことがここにも起きているんじゃないか、と推測しているわけです。

半導体製造装置の需要が増大中

当たり前のことですが、半導体製造装置メーカーが好業績を連発している背景には旺盛な半導体メーカーの生産設備投資があります。EUV露光装置など、機種の単価自体が跳ね上がっている例もあるのですが、現在は生産ラインの増設による半導体製造装置の出荷台数及び受注台数自体が鰻登りになっているようです。

装置メーカー各社の好業績の一例を見てみます。下記は日本を代表する半導体テスト装置(テスター)メーカーアドバンテストの2021年7月28日発表の四半期決算資料の抜粋です。売上高は前年同期比+45.5%、受注高に至っては前年同期比+160%となっています。受注残も1,729億円と記録的な金額になっており、作っても作っても受注残をこなせない様子が伺えます。

アドバンテストの競合に当たるテラダインも好業績です(Financial Results for Q2 2021)。

以下のスライドではテスター市場はSoC(System-on-Chip = スマホやPCに使われるロジック半導体など)が牽引していることが説明されています(Financial Results for Q2 2021)。“SoC market powered by unit growth, complexity, new technology”とあるようにSoCの出荷個数の伸びとSoC自体の進化がSoCテスト装置市場を牽引します。

SoCの出荷個数が増えるということはそれだけ生産量が増えるということですのでテスター自体の出荷台数が増えると考えられます。また、SoCが進化するということは、より早く動く次世代の半導体をテストしないといけないので、よりパワフルなテスターが必要になります。また、テスターが進化すれば一度にテストできる個数が増えるのですが(スループット向上)そのようなハイエンド機種にはより多くの半導体が搭載されると考えられます。

Teradyneの決算CallでもアナリストとCFOとの下記のようなやり取りがありました。半導体製造装置を作るTeradyne自身も自社のテスト装置に使う半導体の調達に苦労している様子が伺えます。

Brian Chin — Stifel — Analyst
… I’m just curious to what degree, if any, are the extended lead times in ATE in this sort of the current strong semiconductor environment impacting your shipment outlook or pattern in the second half? Obviously, Teradyne no longer discloses bookings, but your competitor appears to be building backlog into the December quarter. So I was wondering if you have better-than-typical backlog visibility beyond September.

Sanjay Mehta — Vice President, Chief Financial Officer
Yes. So lead times have definitely been moving out. I’d say auto and industrial demand is still outstripping supply. But our lead times have pushed out, obviously, based on the very, very tight supply chain environment we’re dealing with. And so what used to be, let’s say, within a quarter has pushed out to five, eight weeks incremental to where we were in the past to be, in some cases, in the 20s in weeks of lead time…
“Teradyne Call Transcripts”

続いて供給側に焦点を当てて解説します。

半導体製造装置は少量生産の特定用途向け半導体を使う

半導体製造装置にも多くの半導体を使います。例を挙げると、電力の制御や変換のためのパワー半導体、半導体製造装置の頭脳を司るロジック半導体、各種メモリー、アナログ半導体などなど。PC・スマホ・車載と同様多種多様な半導体が使われています。

しかし、半導体製造装置に使われる半導体の特徴として特定用途向けの半導体が多いという事が挙げられます。

例えば、PCに搭載されるロジック半導体はIntelやAMDのCPUです。IntelとAMDのCPUは汎用半導体の代表格で基本的にM1 MacbookでなければどこのPCを買っても同じようなCPUが搭載されているわけです(グレードの違いはありますが)。このような汎用品の特徴は少品種大量生産という事です。

一方で、半導体製造装置はその用途が限られています。そういうモノにIntelの汎用CPUを使っても満足に動きません。なので半導体製造装置のロジック半導体はFPGAやカスタムASICと呼ばれる、簡単に言うと半導体製造装置の為に作られたor最適化することができるロジック半導体を使うのです。当然ながらこのような種類の半導体は半導体製造装置メーカーや機種、さらにもしかすると顧客である半導体メーカーに合わせて特注している可能性があり多品種少量生産になってしまうのです。

一例をあげますとFPGA大手のXilinxはテスト装置向けにプラットフォームを提供しているようです。当社のウェブサイトに下記のような製品紹介があります。

次世代の SoC テスト装置は、今後さらに複雑化、高速化するさまざまな I/O プロトコルをテストする必要があります。ザイリンクスの SerDes および HSSIO 技術は、ハイボリューム SoC やメモリ テスト装置の実現にあたり、最適なコストで最高の柔軟性を提供します。メモリ コントローラーやチップ間インターコネクト用の統合されたハード IP を利用することで、リソースとコストを抑えた効率的なインプリメンテーションが可能になります。
引用 – ザイリンクス『半導体自動テスト装置』

大手半導体メーカーTIはウェブサイトにて製造装置のリファレンス・デザインの一例を挙げています。ロジックにはArmコアのMPUもしくはASIC or FPGAが使われるようです(Texas Instruments Semiconductor Manufacturing Reference Designより)。

一方で、製造装置事態はモジュール化された部品で構成されているため、半導体を直接買わないというような場合もあるそうです。このような場合は汎用半導体で構成されているエンベデッドPCなどを買って組み立てるのでしょう。

また半導体製造には多くの電力を必要とします。富士通によるとクリーンルームにおける消費エネルギーの76%は電気で、電力消費内訳の40%が生産設備、40%が空調設備となっているとのことです。半導体製造装置にも電源の制御や供給を行うパワー半導体が使われているのですが、そのような種類のパワー半導体はこれまた特殊用途に使われる事が多く、少量生産品となっている場合が多いでしょう。

その他にも半導体製造装置には多くのメモリー半導体が使われています。メモリーと言うと汎用品の代表格なわけですが、実はピンキリで半導体製造装置などが使うタイプのメモリーはこれまた特殊である場合が多いです。例えばSSDが半導体製造装置にも使われていますが、我々のPCに使われているSSDとは動作温度や信頼性の面で求められる仕様が異なります。個人向けPCであれば基本的に空調の効いた室内使用が想定されますが、工場の生産ラインで使用するとなるといくら空調が効いてるとは言え環境は過酷ですので高温度や高湿度でもしっかり動作できるNAND Flashが求められます。さらに、SSD内のデータが失われたり、すぐ寿命に達して読み書きができなくなると生産ラインが止まり莫大な機会損失が発生するリスクがあります。その為、信頼性やエンデュランスの高いSSDが求められます。当然ながらこのようなSSDは少量生産品である場合が多いです。

このように半導体製造装置には少量生産の特殊用途向け半導体が多く使われると考えられます。少量生産の特殊用途向けと言うとなんだか高い技術力が求められるように聞こえますが(実際そうですが)、サプライチェーンの観点から語るとただの嫌われ者です。

半導体製造装置メーカーは半導体の顧客としては影が薄い

続いて、半導体製造装置メーカーの半導体の購買力の観点について論じます。

下記はIC Insightsによる半導体(おそらくディスクリート除く)のエンド顧客シェアの比率です。ComputerとCommunicationのカサが大きいのですが、これはPC・サーバー・スマホです。続いて家電、車載、産機&その他(Industrial/Other)の順ですが半導体製造装置はIndustrial/Otherに含まれます。半導体製造装置自体は名だたる半導体メーカーから取り合いになっているのですが、半導体製造装置メーカの調達力は半導体メーカーの顧客という観点からすると存在感が薄い場合が多いのではないでしょうか。

また、半導体製造装置に使われるロジック半導体はFPGAやカスタムASICなど特殊用途向けの少量生産品である場合が多いと説明しましたが、これらの半導体はTSMCなどのFoundryが製造をしている場合が多いです。ロジック半導体ですので7nmや5nmでは無いものの、10nm台などそれなりに先端のプロセスを使っていると考えられます。一方で、TSMCの顧客別売上シェアを見るとその多くをSmartphoneやHPC(High Performance Computing)が占めています。しかも、これらの顧客が求める半導体は半導体製造装置に使われる特殊用途向けロジック半導体の生産ラインでバッティングする場合も多いと考えられます。半導体製造装置メーカーが求める半導体はキャパが逼迫するTSMCなどFounrdryの生産ラインに於いてスマホやPC・サーバー向けの巨大顧客とモノの取り合いをしなければならないというなんとも不利な構図が生まれているのです。これは少品種大量生産が基本のメモリー半導体の生産ラインでも同様です。

一方で、特殊用途向けのアナログ半導体やパワー半導体はそれらを専門に生産するマイナーな小粒半導体メーカーが供給している場合があります。それらの規模が小さい半導体メーカーにとってはTSMCやメモリ大手と異なり半導体製造装置のような顧客は上客である場合も考えられるのですが、小規模であるが故になかなか積極的な設備投資が難しいという一面も有ると考えられます。後述しますが、半導体製造装置市場は波の上げ下げがこれまで激しく、そのような顧客に依存するが故に余計投資に対して消極的にならざるを得ないという事情が有ると考えられます。

半導体製造装置向けに半導体の出荷を優先できないのか?

あのツイートをした時、多くの方から『だったら半導体製造装置向けに半導体を優先供給すればいいじゃないか』というコメントを貰いました。

ただ、私自身は非常に複雑化された実際のサプライチェーンにおいてそのような事は簡単ではないと考えます。

そもそも、半導体メーカーで自社のデバイスを販売する営業部と、半導体メーカーで装置の調達を行う調達部は全く別組織です。特にトップ10に入るような巨大な半導体メーカーであれば何万人と従業員がいますし部署ごとの縦割りもハッキリしていますので、調達部の事情で営業部が販売の意思決定をするということは無いでしょう。私自身外資系の大手半導体メーカーにいましたのでその経験からも言えることです。

営業がそれぞれの顧客から何ヶ月も前から受け取っていた需要予測と発注を基に、生産計画がプランニングを行い、どの顧客向けにどのデバイスが最も最適な価格で出荷されるかが決まり会社として売上と利益を上げるわけですから『ウチが買う半導体製造装置がモノ不足で作れないから少量生産だけど急遽生産計画をガラッと変更してくれ』という事情は販売計画を狂わせ機会損失を生みかねないので説得力に欠けるんじゃないかと思います。しかもボトルネックは他社にも有るわけなので異なるメーカーが歩調を揃えるというのはほぼ無理でしょう。

『じゃぁ、大手半導体メーカーじゃなくて半導体製造装置メーカーに依存率が高いマイナーな小粒メーカーならどうなのか』と問う方がいらっしゃるかもしれないですが、実はこのような半導体メーカーはウェハは他社から購入してきて自社ではアッセンブリーだけを行っている場合がございます。特殊用途向けSSDがいい例で、彼らはFWは自社開発であるものの、NAND Flashやコントローラーは他社から購入して組み立てるという場合が多いです。特殊用途向けSSDメーカーから見れば半導体製造装置メーカーは超上客であっても、大本のメモリメーカーやコントローラーメーカー及び大手ファウンダリからするとスポット顧客の一つに過ぎず結局ボトルネックは解決しないのではないかと考えます。

ちなみに『スポットとはなんぞや?』という方は下記の筆者の過去記事を御覧ください。

DRAM eXchangeとメモリ半導体価格
台湾Trend Forece社のDRAM eXchangeでメモリ半導体のスポット価格情報を参考に半導体業界の市況を知る方法を解説。Samsung(サムスン), Kioxia(キオクシア), Micron(マイクロン), SK hynix(ハイニックス)など大手半導体メーカーの動向やニュースを知るのに役立つ。

半導体製造装置メーカーも半導体メーカーも因果応報では?

最後に、そもそも半導体製造装置メーカーの半導体の発注方法、そして半導体メーカーの調達に問題はなかったのか?という点について書きます。しつこいようですが、これに至っては私自身一切絡んだことが無いので完全に推論の範疇で有ることを断っておきます。

まず、下記はドットコムバブルから現在までの半導体デバイスの出荷額及びCAPEXの推移です(データ出典: 半導体出荷額 WSTS / CAPEX IC Insights)。両者凸凹が有るものの、半導体の出荷額はドットコムバブルから僅か4年でブレイクアウトをし右肩上がりの成長を描いてきたのに対して半導体の設備投資額は2011年にやっとドットコムバブル水準を超えました。そして、そこからさらに5年の低迷期を超えて2017年からやっと右肩上がりの成長を描き始めています。これにつきましては、ジャーナリストの湯之上氏が半導体産業はコロナに負けない! 製造装置市場の動向を読み解くという記事で詳しく背景を解説されていますので一読されることをオススメします。

下のグラフは直近6年の半導体デバイス・Capex・製造装置出荷額の推移です。特に半導体製造装置は2016年から2018年まで二桁成長をし、2019年にマイナス成長、からの2020年に再度二桁成長を達成しています。ここで半導体の営業マンである筆者が考えることは『あれ、半導体製造装置市場がこんなにブレるのであればもしかして彼らが半導体メーカーに対して行っていた発注もいきなりフォーキャスト減らしたり、増やしたりを繰り返していたのでは・・?』ということになります。これはつまるところ半導体不足で発注方法が批判されていた車載顧客と同じような事をしていた結果が装置メーカーの調達難の原因のひとつなのでは?と疑っているということです。半導体製造装置メーカーは半導体市場における顧客としての存在感は薄い上に特殊な少量生産品を求めますのでこのような発注方法をしていたとしたら調達難に陥る事は容易に想像できます。

さらに、もっと掘り下げていくと半導体製造装置メーカーの顧客である半導体メーカーの調達方法に疑惑が湧き上がってきます。

下記は半導体の品種ごとのCAPEXの過去三年の変遷です(データ出典 IC Insights)。CAPEXとはCapital Expenditureの略ですが、半導体メーカーの設備投資額のことを指します。設備投資額のうち、金額のカサが大きいのは半導体製造装置になりますのでCAPEXの金額が大きい≒半導体製造装置をたくさん買っているって大まかに考えていいでしょう(最近はEUV露光装置など単価が跳ね上がってる装置もありますが)。見ての通りメモリー(DRAM&Flash)・ロジック・ファウンダリサービスが大部分を占めています。そして、思い当たる大口投資をする半導体メーカーは両手の指で事足りる数しかありません。

半導体メーカーも当然市況と需要に合わせて設備投資を行います。半導体市況も上記のグラフの通り波があります。作りすぎて供給過剰になったら設備投資が冷え込みます。しかも製造装置市場の約4割は価格の上げ下げが激しいメモリーから来ています。以前はチキンレースと称されるように市況が悪くなった時こそ積極投資をしていたらしいですが最近は寡占化してプレイヤーが限られていますので2019年のように冷え込んだら大人しく投資を休めているのではないでしょうか。

さらに、これまた4割を占めるファウンドリ・ロジック半導体は微細化がかなり進んでいますので生産の難易度が上がり、投資をしても思うように生産のアウトプットが上がらない場合もあるでしょう。すると例えばアウトプットの向上を見込んで発注していたテスターなどの装置の発注分がプッシュアウトされたりキャンセルされたりすることもあったんじゃないかと考えられるわけです。

半導体製造装置は半導体デバイスと異なり顧客数も限られており、さらに特定のメモリ・ロジック半導体メーカーとファウンドリが8割型の需要をカバーしているとなるとより一層ブレが激しいと想像できます。

もし、筆者の仮説が正しいとすると車載半導体不足でTier 1やOEMの発注方法を批判し悪者にしていたサプライヤ側も実は同じような事をしていて今苦しんでいる、つまるところ因果応報なのでは?ということになります。

ただ、私はここらへんの市場に絡んだことが無いのであくまでも想像の範囲です。もしこのブログを見ている方で事情を知っている方は言える範囲でコメントでも下さると嬉しいです。

おわり。

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