2021年 半導体需要の『緩み』を予測

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当ブログの最初のポスト『2021年の半導体業界市況を解説』という記事で、半導体業界の2021年の見通しを解説いたしました。WSTSなど、半導体業界調査団体の予測では2021年の半導体市況の見通しを約8%の成長とみていて、半導体デバイス出荷総額は過去最高記録を更新する見込みです。

2021年の半導体業界市況を解説
2021年の半導体業界市況ニュースについて解説。AMD, NVIDIA, TSMC, Intelなどのロジック半導体、Samsung, SK hynix, Micron, Kioxiaなどのメモリ半導体、8インチで製造されるアナログ半導体の需給バランスなどについて。

私自身もこの予測には概ね同意なのですが、Twitterを通して半導体セクターに関心のある方々から『2021年は1年を通じて需給がキツイのか、供給が改善するのはいつなのか』という質問を受けます。

結論を先に申し上げると、私は『2021年を通じて半導体市況は好調であるものの、ある時点で半導体需給バランスの緩みが来る』と考えています。

ということで、本記事では半導体業界に勤める筆者が考える2021年の半導体需給バランスの緩みについて考察いたします。

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2021年半導体市場成長予想(おさらい)

2021年の半導体市場成長予想についてはすでに上記の記事にて解説しておりますので、簡単なまとめに留めます。

・2021年半導体デバイス出荷総額は約4700億ドル(2020年比 +8.4%)で過去最高記録更新
・デバイスごとにみると、メモリ +13%, / アナログ +8.6% / ロジック +7%
→データセンターや5Gスマートフォンなどの市場が牽引
・現在はアナログやロジックがボトルネックになっている

リードタイムの長期化やFCSTの厳格管理化などデリバリーがタイトになっている状況を日々感じています。

2020年下期以降の半導体業界供給逼迫の経緯を解説

上述の通り、半導体業界の市況は1年を通じていい状態ではあるものの、個人的には2021年のQ2終盤〜Q3にかけて需給バランスの緩みが入ると考えています。

とはいえ2020年Q4現在(本記事執筆時点)で半導体の供給は非常に逼迫し、リードタイムの長期化と大幅な納期遅延が発生しています。例えば業界内では下記のような懸念が散見されます。

中国自動車工業協会(CAAM;中汽協会)」副秘書長の李邵華氏は、車載半導体の供給不足について以下のように述べた…産業チェーンの企業はいずれもリードタイムを延長しており、半導体の生産能力不足も短期間では解消されないため、車載半導体の価格上昇は避けられないだろう

出典36Kr Japan『中国自動車業界、車載用半導体不足による生産活動への影響を懸念』

このような状況は2020年のQ3の中盤から兆候が見え始めたのですが、以下の背景があると分析します。

①コロナ第一波とロックダウンにより、車載需要FCSTが激減
→北米・欧州Lockdownで車販売店も営業不可に、現行車両販売減速と新車販売の遅延
→車載向け半導体のFCSTが瞬間的に激減
②データセンター及びスマートフォン需要は成長
→ビデオ会議の普及などデジタル化に伴いサーバー増強、半導体需要増加
→5Gスマホ新機種の発売によるスマホ向け半導体需要増加
③車載FCST回復とコロナ特需&スマホ需要の作り込みシーズナリティ需要が重なる
→新型スマホは通常Xmasプレゼントシーズンを前に10月-11月頃発表
→作り込みと調達は約3ヶ月前から始まる
→経済活動が再開し、車載顧客の完成品在庫が捌けた秋頃に車載需要急回復
④その他・スポット的な供給悪化
→東南アジアを中心にロックダウン継続による半導体生産キャパ制限
→部材調達困難、一部ファブでの火災報道
→SMIC政治リスク

以下、解説してまいります。

コロナロックダウンが車載半導体市場に与えた影響

コロナウィルスの蔓延と各国政府が実施したロックダウンが車載半導体市場に与えた影響は大きいです。私はドイツに住んでいますが、3月16日にオーストリアやスイスなどの近隣諸国との国境を閉鎖し、その翌週以降は各州・各都市でロックダウンが始まりました。ちなみに余談ですが私は3月15日に休みを取り自転車でドイツとスイスの国境の街Konstanz(コンスタンツ)に行き、呑気に『チャリで来た(スイスに)ww』などと呟いていました。

このロックダウンではスーパーマーケットなど、日常生活のための必需品を販売している商店以外の経済活動が全面的に営業禁止となりました。この営業禁止には新車を販売するディーラーも含まれました。また、欧州各国・都市にある完成車メーカー(以下 OEM)が生産ラインを停止しドミノ倒しのようにTier 1→半導体メーカーへのFCSTが激減しました。

例えばAnalog DevicesのQ3 Earning資料を見てみましょう、2020年Q2/Q3のAuto(車載)セグメントの凹みが-12% / -11%と、とても目立ちます (出典 Analog Devices Q3 Web Schedule)

データが示すように、コロナ第一波の直後は2020年度車載半導体売上が激減し、当時の売上FCSTも激減し、果たしてこのままFCSTが戻らないのか、それとも更に下を向くのかヒヤヒヤしていました。もう少し定量的な数字を公にされているデータを元に見ていきましょう。

欧州の新車登録台数

欧州における乗用車の新車登録台数は下記のグラフが示すとおり、3月〜5月の新車登録台数は前年比マイナス約50%〜マイナス約76%とボコボコにされました(画像出典Passenger car registrations in Europe rise in September for the first time this year)

Passenger car registrations in Europe rise in September for the first time this year - Green Car Congress

なおこのグラフのもう一つの注目ポイントはQ3末(9月)に登録台数が回復基調になっていることです。コレについては後述いたします。

2021年モデルの遅延と車載半導体FCST

各OEMはパンデミックを理由に新モデルの販売延期を発表しました。これにより、当初予定されていた生産ランプアップと部材調達が遅れ結果的に半導体のFCSTにも影響しました。

すこし業界の話をすると、車載半導体のリードタイムは長く設定されており、それに合わせて顧客も長期の生産FCSTを提示する場合が多いです、そうしないと半導体メーカーから必要な数量を供給してもらえないからです(もちろん、実情は色々複雑)。ここでいう顧客とは半導体メーカーから見た顧客で、Tier 1(デンソー、コンチネンタル、ボッシュ等)を指しますが、一方でTier 1は彼らの顧客であるOEMからのFCSTを元に生産FCSTを作成します。ただ、OEMはTier 1が半導体メーカーに提示する程長いFCSTは提示せず、さらに注文リードタイムも非常に短く設定されており、Tier 1が半導体メーカーに提示するリードタイムとOEMがTier 1に提示するリードタイムに情報の格差が生まれまれます、もっというとOEMからは少ない情報をもらい、半導体メーカーにはそれ以上の情報を出さなければならないTier 1は在庫の観点から最も不利な立場にいます。
(参考1 運送物流業界上ラボ『自動車産業の物流とはどのような構造なのか?その特徴とは』)
(参考2 Linear Technology社のBCP対策に学ぶ)

上述の通り春のロックダウンで車を販売するディーラーの営業が停止され、OEMの生産ラインも止まり、更には2021年発売予定の新車モデルの遅延の話が出回りました。そこで、普段から正確な長期FCSTをOEMからもらえないTier 1は先行きの見通しが立たない中、目先の生産FCSTまで削られた為、一気に保守的な運用へ切り替えたと考えられます(自身の在庫リスク削減のため)。

これらがコロナウィルスと春のロックダウンが車載半導体の激減に与えた背景と考えます。

データセンター及びスマートフォン需要は成長

一方で、コロナを追い風に急成長したのがデジタル化です。これは半導体業界にとって非常にプラスとなりました。

例えば上記で既出のAnalog DevicesのQ3 Earning資料のCommsセグメント(Communication)を見てみるとQ2前年比+15%、Q3前年比+32%と、恩恵を受けていることがわかります。

データセンター設備投資

在宅ワークの急成長により、ビデオ会議システムやクラウドサービスの需要が一気に加速しました。これらのエンドサービスの需要増に対応するために、サーバーなどのインフラ・設備投資需要も急増しました。さらに、旺盛な設備投資需要に加えて、コロナによるサプライチェーンの乱れを恐れたサーバー顧客は半導体の部材確保のために在庫積み増しを始めます。このような大口需要家は半導体メーカーと数ヶ月に一度価格・物量の交渉を行うのですが、おそらく需給バランス悪化を懸念して安定した物量供給のための長期契約(LTA)を結び、顧客は安定供給を確保、そして半導体メーカーは車載半導体のFCST減少を上記のサーバー顧客の需要で穴埋めしたと考えられます。

5Gスマホ・新型ゲームコンソール

2020年は5Gスマホの本格競争開始の年でしょう。Appleも10月に新型iPhone12を全機種で5G対応で発表しました(5Gスマホそろい踏み Apple「iPhone12」4機種投入へ)。

半導体デバイスのアプリケーション別売上の殆どは上記のサーバー需要とスマホ需要に支えられています。下記は少々古いデータですがSemiconductor Industry Associationが推定する2018年のアプリ別売上の内訳でCommunication(スマホなど)が32%、Computer(サーバー・個人向けPC含)で31%を占めています。この構図は現在も変わっていない、もしくはこの2市場における比重は高まっていると考えられます。また、今年はPS5など新型ゲームコンソールも発売され、需要に対して生産が追いつかない状況となっています。

車載需要回復とコロナ特需&スマホ新機種作込みシーズンが重なる

この記事を執筆している2020年12月末(公開は1月)時点では、既述の通り現在の半導体の需給バランスは非常に逼迫しています。以下では落ち込んだ車載・産業機械向け需要のリバウンドと5Gスマホなどのシーズナリティの観点から現状を考察します。

車載・産機需要のリバウンド回復

車載需要はリバウンド回復傾向にあり、9月以降の新車登録台数は各地域で前年比を上回っています。

2020年11月の登録台数の新車販売台数が発表された。合計は25万3069台。これは前年同月に対し、6.0%の増加となった。また、前月(25万3304台)に対しては、0.1%の減少となった。
コロナ禍により、前年同月に対する合計台数は減少が続くと思われたが、本月は合計号数が2カ月連続の増加となった。(2020年11月の車種別! 全登録台数&売れ行きランキング)

Passenger car registrations in Europe rise in September for the first time this year - Green Car Congress

また、中国などの景気回復を背景に、設備投資需要も回復しています。

中国の景気回復ペースが11月に加速した。国内外の堅調な需要が下支えした。中国経済は今年プラス成長を確保する公算が大きく、他国に一段と先行する。11月の工業生産は前年同月比7%増とブルームバーグ調査の予想中央値と一致。10月は6.9%増だった。小売売上高は前年同月比5%増と予想と同じ伸び。10月は4.3%増えていた。失業率は5.2%と前月の5.3%からやや低下した。1-11月の固定資産投資は前年同期比2.6%増。市場予想でも2.6%増加が見込まれていた。(Bloomberg 中国の景気回復ペース、11月に加速-国内外の堅調な需要が下支え)

スマホなどの新製品は独身の日やXmas商戦シーズン前に発表、作り込み開始

iPhone 12などの新製品は中国独身の日や世界各地でプレゼント需要が高まるXmasシーズン前に発表します。以下の流れで我々の消費者の手に届くのですが、だいたいの輸送や製造リードタイムを考えるとQ2終わり〜Q3の頭にかけて新製品需要の取込を開始し、販売が好調であれば一気に生産量を高めます。

生産需要の取込開始

完成品製造開始

完成品出荷開始・メディア発表

小売店店頭販売←今ここ
半導体はこのように伝統的にQ3/Q4の市況がシーズナリティ的に強い傾向にあります。また、各メディアが報じている通り5Gスマホや新型ゲーム機の需要は非常に好調です。
米アップルが2021年1~6月にスマートフォン「iPhone」の生産計画を前年同期比30%増の最大9600万台とする方針を取引企業に伝えていることが15日分かった。今秋に出した初の高速通信規格「5G」対応機種の販売が伸びている。

PS5とXboxのシリーズXとシリーズSは飛ぶように売れており、インターネットでは販売価格を数倍上回る値段で転売されている。ソニーは今回が過去最大のゲーム機投入であり、「前例のない」需要を背景に年末までにより多くの在庫を小売業者に発送すると説明している。
(「プレイステーション」と「Xbox」供給不足、ゲーム売り上げに打撃)

車載・産機の回復と旺盛なサーバー需要、スマホやゲーム販売開始時期が重なり取り合いへ

このように、春先のコロナ第一波で激減した車載・産機マーケットのリバウンド回復と、半導体需要の大部分を占めるスマホや新型ゲーム、また先行設備投資を続けるサーバーの旺盛な需要がQ3/Q4に重なり現在のように半導体供給が逼迫した状況にあると考えられます。

特に、春先にFCSTを激減させた車載・産機顧客は、先行需要を見越してLTAを半導体メーカーと締結した大手のスマホ・サーバー・ゲーム顧客に半導体供給の物量を取られてしまっており、苦しい立場に置かれているのでは無いでしょうか。

その他・スポット的要因

その他にもいくつかのスポット的要因が考えられます。これは、主に供給側の話になります。

①秋のコロナウイルス第二波による半導体メーカー生産キャパ減少、部材不足も
春もそうだったのですが、秋のコロナ第二波で従業員が出勤できず、半導体の生産能力が低下しているというニュースがあります(半導体工場は自動化されているが、まだマンパワーに頼る部分もあり)

欧州や東南アジアでは、新型コロナウイルスの第2波により主要な半導体工場が生産を停止し、海外メーカーの半導体供給が低下している。
(JETRO 自動車業界、半導体不足が生産に及ぼす影響を懸念)

またサブストレートなどの部材不足も報道されています

IC substrate quotes rising 20-40% amid tight supply (Digitimes)

②10月に宮崎某社の生産設備で火災が発生
当該企業の生産能力は半導体業界全体の生産能力のほんの僅かではありますが、一部高いシェアを誇る製品群もあるようで、それらの代替品置換えが推察されます。そうすると置き換え先のキャパ不足となります。

《独自》自動車大手、年明け大幅減産へ 半導体が工場火災で不足

③SMICのエンティティリスト入り
これはまだまだこれからの話になりますが、リスクを感じる大口需要家はすでに代替品発注への切り替え作業を開始しているということが報道されています。

SMICが半導体業界に与える影響を考察
中国Foundry大手SMICのアメリカ禁輸リスト追加が半導体業界へ与える影響を考察。SMICは世界の半導体供給能力では大きな影響力はないが、現在逼迫している8 inchウェハに限ると生産シェアは相対的に上がる。QualcommやBroadcomもSMICの生産ラインを利用しているがUMCなどへの注文切替が予想される。

半導体メーカーは現在生産能力を向上させていますが、アウトプットに反映されるのは数ヶ月〜数年先で短期的な状況改善にはなりません。むしろ、上記のようなスポット的な供給減が逼迫を悪化させていると考えられます。

2021年需給バランスの緩みはQ2終盤〜Q3初頭と予想

まず、大前提として2021年の半導体業界市況が総じて良い(半導体メーカーにとって)ことは変わりありません。それは、成長し続ける旺盛な半導体需要に対して半導体の供給が追いつかないという根本的な構造問題があるからです。

ただ、現在見られるような少々過熱気味とも言える供給逼迫はQ2終盤〜Q3初頭にかけて改善するのではないかと考えています(逆転はしない)。

以下、私が考察する理由について述べます。

Q1/Q2は半導体需要が弱い季節

記述の通り、半導体の需要の多くをスマートフォンが占めます。また、新型ゲーム機なども1台あたりの半導体搭載個数が増えています。ただし、これらのコンスマー製品はクリスマス商戦シーズンをすぎると需要の一服感が出ることで知られています。また、CES2021もデジタル開催となり、テレビなどその他のコンスマー新製品のセンセーショナルな報道には物足りないかもしれません。すると、Q2/Q3あたりから需要の減速が出てくるかもしれません。もちろん、Q3からシーズナリティは復活するのですが、5Gスマホ元年は2020年ですのでそこまでインパクトは無いかもしれません。

しかし、今年は在宅需要やオンライン販売という後押しがあったものの、コロナワクチンが出回り街に人が出回ることで、思わぬ反動需要が来るのでは、とも考えています。数カ月ぶりに家族でデパートに行き、衝動的に子供にゲーム機や新型スマホを買ってあげる、というような心温まる(?)シチュエーションも目に浮かびます。

さらに、サーバー需要の顧客は一般消費者でなく企業であり設備投資という側面があります。設備投資にはコンスマー製品のような目立ったシーズナリティがありません。また産業向け設備投資や新型モデルの発売が延期された車載需要も2021年に貢献することを考えると、コンスマー製品の需要一服を穴埋めしてしまうかもしれません。

顧客のバックログが捌ける

現在、スマホメーカーやゲーム機メーカーは需要に対して供給が追いつかず、小売店向けのバックログが溜まっている状況だと思います。ただ、上述の通りシーズナリティがすぎればバックログが一気に捌け、ストンと需要の落としが来る可能性もあります。

顧客の在庫調整・パニックオーダーが沈静化

現在、顧客は強い需要と供給不足を背景に在庫を積み増しています。ただ、どんなにオーダーをかけても供給が足りないので実際に納入されるのは数ヶ月遅れのQ1末とかQ2といった状況になるのではないでしょうか。年末にほしかった物量が数ヶ月遅れで納入される一方で、需要が一服しやバックログが捌けた後、需要が弱まれば大口顧客は大胆に在庫調整をかける可能性があります。

また現在の需要の一部はパニックオーダー分も含まれます。パニックオーダーとは本来生産に必要な最低数量+適正在庫水準を超えた過剰な発注です。数カ月後には視界がだんだんクリアになってきて、そのような余剰分はPush Outもしくはキャンセルとなる可能性もあります。ただし、半導体メーカーは予めこのようなパニックオーダーを見越して需要予測をしているため、必ずしも過度な需要の読み間違いをしているということは無いとも考えられます。

まとめ

以上、現状の半導体業界における供給逼迫の背景と、需給バランスの緩みが来る時点について筆者の考察を述べました。まとめると

・現在は春先に落ちた車載・産機需要のリバウンドと5Gスマホなどの生産が重なっている
・半導体供給もスポット的にダメージを受けている
・2021年Q2終盤頃に現在の需給に緩みが入る可能性が高い
・ただし2021年は通年で半導体業界にとって良い年となる
という形でしょうか。半導体業界は刻一刻と状況が変わるため、引き続きマーケットの観察を続け、修正が入った際にはまた解説をさせていただきたく思います。

 

 

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