半導体業界の過去の合併・買収の破談劇

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お世話になっております。

昨日、半導体製造装置大手のアプライドマテリアルズによるKOKUSAIの合併が破談になるかもしれない、というニュースが流れました。中国当局が承認を渋っているのが理由らしいです。

アプライド、旧日立系KOKUSAI買収断念も-中国の承認得られず
半導体製造装置メーカー大手の米アプライド・マテリアルズは、米投資会社KKR傘下の旧日立系企業KOKUSAI ELECTRICを35億ドル(約3800億円)で買収する計画を中国当局がまだ承認していないとして、同買収を断念する可能性がある。

私個人的にアプライドマテリアルズの株に投資しており、KOKUSAIの買収は製品ポートフォリオの補完とさらなる業績成長の原動力になってくれるのでは、と期待していたので残念に思っています。

FY20半導体製造装置メーカーの決算振り返りと今後の考察
半導体製造装置メーカーのうち、特に前工程の製造プロセスにおいて使用される大手3社の2020年の業績の振り返りと今後について考察をいたします。 この記事で取り上げる半導体製造装置メーカーはApplied Materials、ASML、Lam Researchの3社です。

これ以外にも、2021年3月時点で大規模な買収・合併を控えている半導体のビッグディールはいくつか存在します。思い当たるだけで名を挙げると下記でしょうか。

・NvidiaによるARM買収
・SK hynixによりIntel NAND事業買収
・AMDによるXilinx買収
・Analog DevicesによるMaxim Integrated買収
・MarvellによるInphi買収
・ルネサスによるDialog買収
いずれも、中国政府などの当局承認待ちというステータスであったり、また、場合によっては競合の半導体メーカーからの猛烈な反対ロビー活動が展開されている、という噂もあります。例えばNvidiaによるARM買収は噂どころかARMを使っている半導体メーカーが連盟で『ARMの中立性を揺るがしかねない』と反対声明を出しており、また中国からしてもARMが米国企業の手中に収まることは貿易戦争の切り札のようなカードを与えるという非常に大きなリスクになりかねないので個人的には難しいのではないか?と考えています。
半導体はまだまだ将来に渡り成長が見込まれる市場でありますが、一方でブルーオーシャンではなく、各社の成長は技術革新の急成長でシェアを広げるだけに留まらず、買収・合併を繰り返すことで圧倒的な規模を作り上げ食うか食われるかの世界になってきていると思います。ただ、買収・合併には独禁法や安全保障など各国当局の規制に引っかからず、承認を得ることが必須であり、またそれらの判断には必ずしも経済合理性だけでなく政治的な意図が盛り込まれています(参考『半導体 1兆円M&A競う 20年は過去最高超え12兆円』)。
そこで本記事では、過去に破談となってしまった半導体のビッグディールについていくつか紹介していきたいと思います。
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アプライドマテリアルズと東京エレクトロン経営統合

半導体装置大手のアプライドマテリアルズと東京エレクトロンは2013年に経営統合を発表しました。もし合併が実現していたら当時の水準の売上で約100億ドル(約1兆円)規模の半導体製造装置メーカーが誕生している予定でした(アプライドは当時1位、ASMLが2位、TELが3位の売上。売上100億ドルはASMLの当時の売上の約2倍)。

しかし、2015年4月に入り同社は統合計画の解消を発表。シンガポールやドイツ当局などでの審査は降りたものの、中国・日本・韓国・アメリカなど主要国当局の審査は難航、結局アメリカ当局から独禁法を理由にNoを突きつけられ、破断に至ったといいます(参考『東京エレクトロン、日米統合「白紙」の誤算』)。

実際には売上規模で圧倒的な大手が誕生することを嫌った同業の半導体製造装置メーカーや、また顧客である大手半導体メーカーが価格交渉などで主導権を握られることを危惧し、各国当局へロビー活動を展開したと言われています。私も当時新人でしたが大手の半導体デバイスメーカーに入社したばかりでこの件は上司から『こんなこともあるんだ』と言われたのを覚えています(参考『東京エレクトロン、日米統合「白紙」の誤算』)。

QualcommによるNXP買収

続いて記憶に新しいのは米国通信半導体大手のQualcommによるオランダの車載半導体大手NXPの買収破談です。

Qualcommは2016年に約5兆円でNXP買収を発表しました。当時のQualcommは(今もですが)スマホ向けのSoCや通信モデムでノリに乗っていたわけですが、スマホ出荷台数の頭打ちが見えてきた段階でもあり、将来の成長戦略として車載分野進出を決め、車載半導体大手のNXP買収を決めたと言われています。

しかし、結局最後まで承認を渋っていた中国当局からのGreen lightが出ずに2018年に買収を断念します。背景には当時エスカレートし始めていた米中の貿易摩擦があると言われています(参考『クアルコム、NXP買収断念を発表』)。

あくまで噂話ですが、NXPはQualcommによる買収発表後、各所で人材が結構離れたり、ディスクリートや汎用ロジック事業をNexpriaという新会社として切り離したりと失ったモノも多かったと聞きます。どっかで聞いた噂ですけど。。

BroadcomによるQualcomm買収未遂

2018年2月、QualcommによるNXP買収手続きの最中に出たのは同じくアメリカの通信半導体大手のBroadcomによるQualcomm買収未遂です。買収提案額はなんと約16兆円相当、絵にすると下記のような感じでしょうか。しかし約3ヶ月後に当時のトランプ大統領が介入し、断念することになりました。仮にBroadcom/Qualcomm/NXPが1社になったら通信・車載分野を支配する史上最凶の半導体メーカーが出来上がっていたかもしれません(最強じゃなくて、最凶です)。

ElpidaとMicron経営統合

少し古い話ですがリーマン・ショック後、メモリ各社は大変な不況に陥っており2009年にはドイツのキマンダが経営破綻、日の丸DRAM最後の砦、Elpidaとアメリカの雄・Micronも例外なく瀕死の状態でした(韓国のハイニックスや台湾中小メーカーも同じく)。

Elpidaの坂本前社長の回想によると、実は2011年秋ころからMicronと経営統合の話を勧めていたといいます(参考『坂本前社長が語る「エルピーダ倒産」の全貌』)。そして翌2012年春には経営統合の話がまとまっていた矢先、当時のMicronのCEO アップルトン氏が趣味のプロペラ機の操縦中に墜落死し、経営統合の話もゴタゴタの中で流れてしまったといいます。

その後、負債総額約4480億円で会社更生法を適用申請したElpidaは結局Micron傘下に入ることとなります。

更生手続終結のお知らせ – Termination of Corporate Reorganization Proceedings
弊社は、更生計画に基づく最後の分割弁済である第7回弁済を2019年12月に実施し、2020年7月22日、東京地方裁判所より更生手続終結の決定をいただきました。これもひとえに、皆様のご支援、ご協力の賜と心より感謝申し上げます。
(エルピーダはマイクロンになりました)

加賀電子とUKC経営統合

日本には沢山の半導体商社が存在します(これは近いうちに記事にする予定です)。半導体メーカーの買収・合併が起こるとその裏では商流の変更など様々な副作用が発生し、大抵の場合、しわ寄せを食らうのが半導体商社(代理店)です。

世界ではArrow・Avnet・Future・WPGといった売上1兆円〜2兆円規模の大手の代理店が存在するわけですが彼らは早い段階で各地域で買収に買収を重ねて成長した半導体代理店です。

一方で、シュリンクし続ける日本市場でひしめき合う代理店も商流統合によるターミネートや衰退の波から身を守るために経営統合に活路を見出しています。代表的な例ですとマクニカと富士エレクトロニクス(現マクニカ・富士エレホールディングス)、バイテックとUKC(現レスターホールディングス)、加賀電子による富士通エレクトロニクスの買収、トーメンエレクトロニクスと豊通エレクトロニクスの合併により誕生したネクスティエレクトロニクスなどでしょうか。どれも4000億円〜5500億円の売上規模の会社ですね。

2015年に元々ソニー系のユーエスシーの流れをくむUKCホールディングスと独立系大手の加賀電子の経営統合が発表され、5000億円規模の大手半導体商社が誕生する予定でしたが、翌年に破談となります。何が理由だったのかは正直興味がありません(日経新聞『UKCと加賀電子、経営統合の協議を中止』)。

近いうちに半導体商社については記事にしますが、結構世知辛い時代になっています。

中華系投資ファンドによるLattice買収

Lattice(ラティス)はFPGAの準大手です。FPGAとはField Programmable Gate Arrayの略で非常に簡潔に言うと、お客さんが(ほぼ自由に)内部の論理回路を書き換えることができ(というか予めある回路の組み合わせを自由に行うことができる)、望むとおりに現場でカスタマイズすることができる半導体です。CPUと同じロジック半導体なわけですが、CPUはFPGAのように回路を自由に書き換えることはできず、代わりに様々なタイプのエンドアプリケーションで汎用的に使うことができるので大量生産されます。一方でFPGAは少量希少品種の代表格のような存在です。

2015年にはFPGA最大手のAlteraがIntelによって約2兆円で買収され、Intel Programmable Solutionという事業部の一つになりました。また2020年にはAMDがXilinxを約3兆6千億円規模で買収発表しました。IntelもAMDも汎用CPUの2強なわけですが、FPGAのように用途を絞り消費電力や機能の面でピッタリの半導体ポートフォリオを持つことで補完をしているわけです。代表的な例だとデータセンターでのFPGA利用です。

データセンターの要求に汎用CPUとGPUで対応するには限界が来ている。多様化するデータセンターの効率化の要求にはFPGAによるアクセラレーターでの対応は非常に有効で、大手顧客を素早く取り込むためには必須である。その点で、今回のAMD・Xilinxの組み合わせは理想的。
引用『AMDによるXilinxの買収について思うこと』

ちょっと話が長くなりました。そんなFPGAの専業メーカーであるLattice Semiconductorという米系のメーカーがあります、売上規模はだいたい450-500億円程度でしょうか。民生・産業機械・車載などで幅広く使われている同社を2016年中華系の投資ファンドCanyon Bridge Capital Partnersが約13億ドルで買収を発表しました。しかし、結局この買収案も中国へのFPGAという高度な技術流出を危惧した米国トランプ元大統領の大統領令により買収が阻止されました(Trump bars Chinese-backed firm from buying U.S. chipmaker Lattice)。

InfineonによるCree SiC事業買収

ドイツの車載半導体大手Infineonは特にパワー半導体で大きなシェアを握る半導体メーカーです。Infineonは2014年にパワー半導体のIR社を買収したり、直近ではアメリカの車載マイコン・NOR大手で知られるCypress Semiconductorを買収を2020年に完了したばかりです。

CreeはアメリカのLEDやパワーを手掛ける半導体メーカーですが、Wolfspeedというブランド名でパワー・RF半導体を展開しています。CreeのWolfspeedは特にSiC(炭化ケイ素)という素材で作られ省電力の観点からアドバンテージをもつ半導体に強いのですが、EVや産業向けの省エネルギーという観点から将来のパワー半導体戦略の布石を狙うInfineonが約900億円で買収提案をしました。

パワー半導体勢力図を解説
ディスクリート・パワー半導体市場と半導体メーカーの勢力図について解説します。パワー半導体は日常の様々な場面で使われていますが、ハイブリッド車等の普及に伴い車載市場での成長などが今後は期待されます。SiCなど次世代素材も出てきています。本記事ではパワー半導体の市場と各メーカーの勢力図などについて説明します。

しかし、2017年にアメリカ当局より『米国の国家安全保障にリスクを生じさせる』と伝えられ断念することとなります(参考『InfineonによるCreeのSiC事業買収が破談に』)

東芝メモリと外為法

東芝メモリが競売にかけられた時、シャープを買収した台湾の鴻海(Foxconn)や中国の政府系半導体メーカー紫光集団が入札意欲を見せました。いずれも2兆円中盤〜3兆円台の入札額の提示を用意したと報じられていたのですが、『NANDフラッシュやSSDのコントローラーなどは軍事用途に転用が可能』といったメチャクチャなこじつけ理由でこれらの企業による買収を阻止したと言われています。

もちろん、様々な政治的な圧力がかかったはずなのですが、このとき『外為法』を理由に入札を拒否された中国は『経済自由主義を唄いながら、真逆のことをしている。入札額の引上げだけに使われる気は無い』と激怒したと言われています、まさか中国にそれを言われるとは・・・

私は当時半導体業界で働き始めて2年目とかだったのですが、『日本の政府系の天下り役人がメモリ半導体を経営して潰すよりは、台湾や中国、もしくは韓国のようなところに任せたほうがいいのでは?』と思ったと記憶していますね。

 東芝メモリの買収を巡っては当初、日本政府は無関心だった。例えば、世耕弘成経産相は1月20日、「経産省として(東芝に対する)支援策など対応を検討していない」と述べた(ロイター1月20日)。ところが、2月17日には、「(東芝メモリの技術は)わが国が保持していかなければならない技術で、雇用が維持されていくことも重要だ」と前言を撤回するような発言をした(産経新聞2月17日)。そして、とうとう3月23日には、菅義偉官房長官が「(東芝メモリは)グローバルに見ても高い競争力があり、雇用維持に極めて重要。情報セキュリティーの観点からも重要性が増す」と発言した。そして同日、日本政府は、「中国、台湾、韓国企業による買収は、外為法違反として許可しない」という方針を打ち出した(日経新聞3月23日)。
引用 湯之上隆『東芝メモリ売却劇、外為法違反適用は「愚策」』

政府は経営再建中の東芝が検討する半導体メモリー事業売却を巡り、売却先が外資系企業となる場合、外為法による事前審査の対象とする方針だ。東芝の一部技術が軍事転用できる恐れがあり、売却の中身次第で計画の中止や変更を勧告する。
引用 日経新聞『東芝の半導体売却、政府が外為法で事前審査へ』

半導体業界のM&Aはこれからも波乱が続く

半導体はこれからも人類の進歩とともに需要が伸び続けるセクターだと思っています。一方で、ムーアの法則の限界など、技術革新の難易度は上がり、成長のスピードが鈍化している分野もあり、各社は生き残りをかけて買収に買収を重ねシェアを拡大しています。

しかし、大型小型を問わず、買収には各国の規制当局の承認が必要で、その判断には必ずしも純粋な経済的背景だけでなく、競合によるロビー活動や国境を超えた政治的な争いが関わってきます。

現在、買収に関する承認手続きが進行中のディールもすべてがうまくいくかどうかはわかりませんね。

 

 

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