台湾のメモリ半導体メーカーの戦略を解説

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台湾の半導体メーカーについて解説する記事です。台湾の半導体業界はFoundryのTSMC(台湾セミコンダクタ)やスマホチップセットのファブレス半導体メーカー、Mediatek(メディアテック)が有名ですが、この記事はTSMCのような大御所よりも、台湾のメモリ半導体メーカーという少々ニッチな分野にスポットライトを当てたいと思います。

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メモリ半導体業界における台湾半導体メーカーのシェア

メモリ半導体メーカーと言えば大手のSamsung(サムスン), SK hynix(ハイニックス), Micron(マイクロン), Kioxia(キオクシア)など、韓国・アメリカ・日本の大手半導体メーカーを思い浮かべる方が多いと思います。
メモリ市場は半導体デバイス出荷額の約3割を占めますが、そのほとんどが大手半導体メーカーの寡占市場となっているので当然のことだと思います。メモリ業界における台湾半導体メーカーのシェアは10%にも満たないでしょう。

下記の様にDRAM及びNAND共に大手半導体メーカーが市場の9割以上を占めています。そんな中、台湾のメモリ半導体メーカーはニッチな位置づけを過去十数年にわたり、確立し続けてきました。

メモリ半導体・DRAM市場を解説
メモリ半導体を代表するDRAM市場について解説。DRAMは歴史をたどるとIntel(インテル)などアメリカ半導体メーカーの独壇場だったが現在はSamsung(サムスン)、SK hynix(ハイニックス)、Micron(マイクロン)の3社の寡占市場。将来はEUV露光装置などの半導体製造装置の動向にも注目。

台湾のメモリ半導体メーカーのポジションは3つ

私は、台湾のメモリ半導体メーカーはメモリ業界において下記の3つのポジションを確立していると考えています。

【台湾のメモリ半導体メーカーのポジション】
① レガシーDRAMの供給
② NANDコントローラーとアッセンブリ
③ NORフラッシュ
以下ではそれぞれのポジションにおける、台湾メーカーの強みについて説明して参ります。

台湾の半導体メーカー・DRAM

台湾にはいくつかのDRAMメーカーが存在します。代表的なところだと下記のメーカーでしょうか

・Nanya Technology(ナンヤ)
・Winbond Electronics(ウィンボンド)
・Powerchip (パワーチップ)
これらの台湾メモリ半導体メーカーの占めるDRAM市場シェアは2020年時点で10%にも満たないです。大手3社に比べて、生産キャパも圧倒的に足りないですし、半導体業界の競争力における命ともいえる新製品の開発も比べ物にならないほど劣っています。
一方でDRAMの国別・半導体メーカー別の過去45年のシェアを見ると、日米韓のシェアが乱降下し、ドイツが退場している中で台湾だけは過去20年にわたり、少ないながらも一定のシェアを取り続けていることがわかります。
サイクルがとても早いDRAMビジネスにおいて台湾勢が勝ち組ではないながらも退場せず、一定のシェアを取り続けられるのは、レガシーDRAMの長期供給が可能であることが大きな理由の一つであると考えます。

レガシーDRAMの長期供給

DRAMと一口に言っても、様々なタイプのDRAMが存在します。PCやサーバーのメインメモリは現在DDR4といったタイプのDRAMが主流ですし、スマートフォンに使われるDRAMはLPDDR5(Low Power DRAM)がメインです。また、プレステなどの高度なグラフィックスを処理するゲームコンソールにはGDDR6(Graphic DRAM)というタイプのDRAMが使われています。これらはすべてメインストリームのDRAMで米韓の大手3社の独壇場となっています。

一方で、DDR3やDDR2、LPDDR2/3といった数年前に主流であったDRAMの需要もまだまだ残っています。上記のメインストリームのDRAMはスマホ・PC・ゲームといった製品サイクルの早いマーケットで使われるのに対し、レガシー化したDRAMは産業機械、車載、またはIoTなど細々と長続きする市場で使われ続けます。

大手3社はDRAM市場の最も大きな部分を取る為に、このようなレガシー化したDRAMの生産はすぐに辞めて新製品への生産比率を高めていきますが、台湾の半導体メーカーは最先端のDRAMの開発・製造はビハインドする代わりにレガシー化したDRAMの供給を続けます。

特に車載などは製品世代の交換(PCN)が容易ではない為、一部の台湾メモリ半導体メーカーを供給ヘッジとしてBOMに入れておく動きが良く見られます。

価格競争力

とはいってもナンヤなどは一部のDRAM主流マーケットに食い込んでいます。生産キャパも相対的に乏しく、知名度も低い台湾メーカーが大手顧客の一部のシェアを取ることができる理由は、レガシーDRAMの供給の他に、価格です。

注意していただきたいのは、必ずしも台湾メーカーに価格競争力がある、と言っているのではありません。確かに、大手メーカーに比べ開発費も少なく、また30nmや20nm後半世代など比較的枯れたプロセスと製造装置で生産を続ける為、減価償却費などの観点から有利になるという声も上がります。

ただ、メモリ半導体業界の根本は『需給バランスが価格を決める』ことです。需要に対して供給過剰になればDRAMの価格は下落します。そんな時に真っ先にDRAMの値下げを始めて価格攻撃を仕掛けるのが台湾の半導体メーカーなのです。

半導体は兎に角お金のかかるビジネスで、毎月の生産ライン維持費もバカになりません。そんな時にキャッシュフローが良くないと経営に影響がでます。汎用メモリの価格は多くの場合3か月に一度妥結され、その時の価格に合わせて物量シェアが割りあてられます。供給過剰、つまり価格の下落局面で値段で勝負を仕掛けないと次の3か月の注文量が減ります。加えて価格も下がるので売上が激減するのです。

そんな時、大手3社であれば比較的潤沢なキャッシュフローがあり、特に韓国2社は背景に巨大な財閥資本が構えているため、多少シェアが落ちたくらいでも経営が揺らぐことはないでしょう。ただ、小粒な台湾半導体メーカーは先陣を切って値下げをし、価格暴落を起こすきっかけになると言われています。ただ、もちろんシェアは上がりますが、一方で自分たちの利益率を大幅に圧縮する事にもつながります。

台湾のメモリ半導体メーカー・NAND

つづいて、台湾のメモリ半導体メーカーがNANDマーケットで担う役割について解説いたします。

まず、DRAMと違い、台湾にはNANDウェハ自体を作ることができる半導体メーカーはほぼ存在しません。ほぼ存在しません、というのはSLC NANDを作り始めたNORフラッシュメーカーは確かに居るのですが、それについては後ほど解説します。

台湾のメモリ半導体メーカーがNAND市場で担う役割は下記の2つであると思います。

①NANDを利用したモジュール製品
②NANDフラッシュコントローラー
それぞれ、説明して参ります。

NANDを利用したモジュール製品

NANDフラッシュというのはデータを長期記憶するタイプのメモリで、SSDドライブとかUSBメモリとかSDカードとかスマホの内蔵メモリ(eMMC, UFSといったタイプが主流)に使われています。NANDを利用したモジュール製品というのはここでは主にSSD(SATA/PCIe)、USB、SDカードを指します。

台湾にはこれらのモジュール製品を製造・販売するメーカーが多く、シェアも非常に高いです。このようなモジュールメーカーを3rd Party NAND Vendorとか呼んだりします。彼らの主戦マーケットは主に小売り向けで、このような3rd Partyメーカーが担うマーケットをSPOTマーケットとも呼ばれます。

NAND市場におけるSPOTマーケットはデータセンターなどの主戦市場に比べるともちろん小さいのですが、需給のバッファ調整役というを持っています。詳しくは下記記事をご覧ください。

DRAM eXchangeとメモリ半導体価格
台湾Trend Forece社のDRAM eXchangeでメモリ半導体のスポット価格情報を参考に半導体業界の市況を知る方法を解説。Samsung(サムスン), Kioxia(キオクシア), Micron(マイクロン), SK hynix(ハイニックス)など大手半導体メーカーの動向やニュースを知るのに役立つ。

代表的なメーカーは

・ADATA
・Apacer
・Transcend

などでしょうか。

NANDフラッシュコントローラー

SSDなどはこのNANDフラッシュだけがあれば良いわけでは無く、コントローラーと呼ばれる別のチップが必要です。コントローラーは簡単に言えばホストとNANDフラッシュの間に存在し、データの読み書き管理という重要な役割をつかさどります。
もちろん、Samsung(サムスン)やKioxia(キオクシア)などNAND自体を製造しているメーカー(ピュアNANDメーカーという)は自身でコントローラも設計・製造しているのですが、それは主に自社製品に使う為に使用されます。
上記で説明した小売り向けのリテールSSD、USB、SDカードなどにはWDやSamsung純正品もありますが、圧倒的なシェアを握るのが上記のADATA、トランセンドをはじめとする3rd Partyベンダーです。
これらのSSDにはNANDフラッシュコントローラーの設計開発に特化したメーカーのコントローラーが搭載されている事が多く、その多くが台湾に存在します。代表的な企業は下記でしょう。
・Silicon Motion (SMI/エスエムアイ)
・Phison (ファイソン) *Kioxiaが大株主
こうしたコントローラーメーカーは自社ブランドでモジュール製品を販売することもありますが、どちらかというと3rd Party ベンダーのモジュール製品の多くに採用され、拡販されることで売上を確保しています。
また、NANDブラッシュは容量・タイプ・世代など様々な種類があり、一つ一つがそれぞれのコントローラーにValidationされる必要があります。SPOT市場がマーケットのバッファ調整役になることを考えるとこれらのコントローラーベンダーにNANDフラッシュがしっかりとValidateされていることはとても重要なのです。

台湾のメモリ半導体メーカー・NORフラッシュ(とSLC NAND)

最後に、NORフラッシュとSLC NANDという観点から台湾半導体メーカーのポジションについて解説して参ります。

NORフラッシュ

NORフラッシュというのは、NANDと同じくデータの格納をするタイプのメモリーでNAND出てくる前のメインのメモリでした。しかし、NANDはNORと比べて圧倒的に大容量化・Bit単価コスパに優れているため、今ではかなりニッチな存在になりました。

しかしNORフラッシュは高い信頼性があり、例えば車載や産機向けのブートメモリなどとして根強い市場があります。詳しくはこちらをご覧ください。

NORフラッシュは台湾メーカーの存在感が強い

NORフラッシュの市場規模は$3200Million USDと言われており、半導体のデバイス総出荷額に占めるウェイトは約1%にも満たないです。

ただ、Trend Forceによると、この約3500億円の市場のうち約半分を台湾メーカーの下記2社が占めています。

・MXIC(マクロニクス)
・Winbond(ウィンボンド)

ASPs plus 20 Prozent: Die größten NOR-Flash-IC-Hersteller – Halbleiter – Elektroniknet

特に業界3位のGiga Deviceは中国企業であり最近風当たりが強いうえに、ファブレスで中華系のFoundryを生産に使っている事が知られており、顧客は注文をマクロニクス・ウィンボンド・サイプレス(現在はドイツのインフィニオンになりました)に切り替え始めているという噂が立っています。

SMICが半導体業界に与える影響を考察
中国Foundry大手SMICのアメリカ禁輸リスト追加が半導体業界へ与える影響を考察。SMICは世界の半導体供給能力では大きな影響力はないが、現在逼迫している8 inchウェハに限ると生産シェアは相対的に上がる。QualcommやBroadcomもSMICの生産ラインを利用しているがUMCなどへの注文切替が予想される。

NORフラッシュは今後もニッチな市場であることは変わりないですが、車載やゲーム、スマートフォン、サーバーなど多くのマーケットでまだまだ利用されており安定的な市場であることがわかります。

SLC NANDも始めている

NANDフラッシュというのは大きく分けてSLC、MLC、TLCという3タイプに分けられます。ざっくりと説明するとSLCは一つのセルに1bit, MLCは2bit, TLCは3bitのデータが保存され、下の図のとおり右に行けば行くほどデータを格納できる容量が増えます。

画像引用【https://www.cactus-tech.com/resources/blog/details/solid-state-drive-primer-2-slc-mlc-and-tlc-nand-flash/

現在の主流は3D TLCでデータセンターやスマートフォンの内蔵メモリなど大型の容量を低価格で必要とする部分で使われます。一方でSLCはニッチな存在で、NANDの市場の約6%程度を占めいると考えられます。

ただ、データの容量・単価と信頼性はトレードオフの関係なため、高い信頼性が必要とされる分野においてはまだまだSLCタイプのNANDが必要になります。

大手ベンダはTLCやQLC(1つのセルに4bit)などの開発に注力しているため、このようなニッチなタイプのメモリの生産に力を入れません。そこでマクロニクスやWinbondなどの台湾メーカーはSLC NANDの生産を始めており、これまたレガシー市場のシェアを上げてきています。また、一部のNORフラッシュ需要は今後SLCに置き換えられることも考えられるため、この流れは当然と言えるでしょう。

こうした市場は競争が比較的少なく、TAM自体は小さいモノの、長期で安定的に利益を上げられる市場と考えられています。

台湾のメモリ半導体メーカー・まとめ

以上、台湾のメモリ半導体メーカーと市場における立ち位置について説明いたしました。纏めると

【DRAM】
・レガシー品を長期供給、産機市場や一部車載市場などで重宝される
・価格暴落を起こしやすい、台湾メモリ半導体メーカーにとっては諸刃の剣
・代表企業はWinbondやNanya
【NAND】
・ADATAやTranscendなどのモジュールメーカーの存在感が大きい
・SMIやPhison等コントローラーメーカーも重要【NOR】
・マクロニクスとWinbondで50%のシェア。SMICのニュースは追い風になる?
・SLC NANDの出荷も始めている
と、台湾のメモリ半導体メーカーはFoundry大手のTSMCのような存在感は無いものの、ニッチな市場を長期で安定的に握り続けると言えるでしょう。
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