FY22ディスコ決算発表 パワー半導体需要が業績を牽引

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お世話になっております。個人的に注目している日本の半導体製造装置メーカー、ディスコの決算発表について簡単に記事を書きたいと思います。

現在半導体デバイス市場の需要は弱く、それに伴いディスコのような半導体製造装置メーカーが受ける影響も心配されています。本記事で解説をしていきますが、ディスコにおいてはパワー半導体が底固く下支えしているものの、メモリやロジック半導体などのIC量産向けダイサーやレーザーソーといった製品がダウントレンドに入っており市況回復の兆候は現時点では確認できていない、とのことです。

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ディスコについて

ディスコは、半導体の製造プロセスにおいて、ウエハーの切断や研磨、洗浄などを行う半導体製造装置のメーカーです。具体的には、ウエハーを切断するためのダイサ、ウエハーの表面・裏面を高精度に研削・研磨するグラインダー、ウエハーの表面を均一に研磨するためのポリッシャーなどを製造しています。

また、ディスコは、製品だけでなく、製品の導入後のサポートも行っています。例えば、装置の据え付けから稼働までのトータルソリューションを提供するほか、保守点検や修理サービスも提供しています。このようなアフターサービスは半導体メーカーが製造ラインを運用する上で不可欠で、多くの半導体製造装置メーカーが力を入れている事業分野でもあります。

製品情報 | 株式会社ディスコ

こちらは半導体製造工程とディスコの製品が使われる工程の図解です(画像はディスコホームページより)。ディスコの製造装置が活躍する領域は、シリコンの塊(インゴッド)を平坦に切り出す工程、回路が形成されたシリコンウェハを薄くする工程、そのウェハから一つ一つのチップを切り出す工程などであると説明できると思います。

ディスコの製品分類

ディスコの製品分類を簡単に説明します。

精密加工装置→ダイサ、グラインダー、ポリッシャーなどの半導体製造各工程で使用される装置
精密加工ツール→上記の加工装置に使われるダイシングブレードなどの部品
部品→もっと小さい部品
その他
FY22通期の製品群別の売上高はディスコの決算短信補足情報によると精密加工装置が全体の64%、精密加工ツールが同22%、部品が9%、その他が5%となりました。
また、精密加工装置の多くはグラインダ(総売上の38%)とダイサ(同22%)が占めていることが説明されています(参考 ディスコ決算発表)。

ディスコ FY22 FQ4およびFY22通期決算

ディスコの決算発表によると2022年第4四半期の決算結果は下記のようになりました。

売上: 790億円 QoQ +20% / YoY +7.5%
粗利率: 64.8% QoQ -0.7ppt / YoY +3.6ppt
営業利益率: 39.4% QoQ +2.7ppt / YoY +1.1ppt
売上も営業利益率もQoQ・YoYで増加しています。ただし、ディスコの売上高は顧客の設備投資意欲と直接の連動性は低く、装置の検収状況 に左右されやすいため、顧客の投資意欲をはかる上では「出荷額」の推移を参照してほしい、という注意書きが決算資料になされています(2019年度(2019年4月~)より会計方針の変更により、装置売上は、顧客の検収をもって計上する「検収ベース」へと移行)。
ちなみに本決算発表後のディスコの東証における株価の動きは下のようになりました。とても大きな出来高を伴いながら株価が+14%上昇しています。

また、FY22通期決算は下記のようになりました。

売上: 2,841億円 YoY +12%
粗利率: 64.9% YoY +4.2ppt *為替影響により上昇
営業利益率: 38.8% YoY +2.8ppt
EPS: 765.47円 YoY +25.1% (*2023年4月1日付の株式分割を踏まえ算定)
売上、粗利率、営業利益率などが過去最高記録を更新したとしています。下記はディスコの決算発表資料に掲載されている四半期の業績推移のスライドです。

ディスコの業績はパワー半導体需要が牽引

売上や利益率などで過去最高業績を打ち出したディスコですが、現在低迷する半導体デバイス市場の影響を受けていないわけではありません

例えば売上の大半を占めるグラインダとダイサはエンドカスタマー別に売上のBreak Downが開示されています。

いずれもIC(ロジック半導体やメモリ半導体)、その他半導体(パワー半導体など)、光半導体(CMOSセンサーなど)などにエンドカスタマーが分類されているのですがロジック半導体やメモリ半導体などが占めるIC向け出荷額はQoQで大きく凹んでいます。世界的なスマホやPC需要の低迷が影響していると説明されています。

一方でパワー半導体が含まれるその他半導体は需要が堅調です。パワー半導体は自動車のEVシフトや世界的な省エネ加速により需要がとても旺盛で各メーカーが次々と投資を発表しています。

他の半導体製造装置メーカーとの最終製品需要の違い

半導体製造装置メーカーとひとくくりに言っても、製造装置や依存する顧客の範囲は様々です。例えばアメリカの大手半導体製造装置メーカーLam Research社はエッチング装置で有名ですがその売上の大半をメモリ(32%)、TSMCなどのFoundry(46%)が占めています(Lam Research March Quarter 2023 Financial Resultより)。Lam Researchの今期の売上はQoQで-26.6%となっています。

一方のディスコのメイン売上セグメントである精密加工装置がロジックやメモリなどのICに依存する割合は約50%ほどとなっているのがわかります。

パワー半導体メーカーの投資には8inch→12inchへの生産ライン刷新やSiCなどの新素材も含まれる

パワー半導体メーカーの投資はTSMCやIntelといったロジック半導体やMicron、SK hynixなどのメモリ大手と比べると小ぶりですが着実に安定して増えて来ていると感じます。

半導体産業の中で、際立った急成長を遂げている分野があります。パワー半導体です。世界中のあらゆる産業で脱炭素化が進む中、電力変換やモーター駆動での電力利用効率向上のキーデバイスとして、パワー半導体の需要が急増しています。パワー半導体メーカーからは、「作れば、作っただけ売れる状況」という需要先行の状態が続いています。しかも、大量の電力を消費するデータセンター向け電源や、電動化・自動化が進む自動車など底堅い需要が数多くあるため、高レベルでの成長が安定的に続く可能性が高そうです。
引用 – SEMICON JAPAN 2022 『メガトレンド脱炭素で急成長するパワー半導体、投資戦略が競争力を決める時代に突入』

特にパワー半導体はただ単に工場を新設しているだけでなく、従来8incnウェハで生産されていたものを12inchウェハにインチアップするなどの刷新やSiCやGaNといった新素材デバイスの生産ラインも含まれているのが投資額の増加に寄与しているのではないかと筆者は考えます。

例えば注目されているSiC(Silicon Carbide)半導体は従来のシリコン半導体よりも高い耐熱性、耐放射線性、高速スイッチング能力を持ち、高温・高周波での動作が可能で、自動車や産業機械、太陽光発電や風力発電などの分野で、従来のシリコン半導体に代わる次世代の高性能素材として注目を集めています。

一方でSiC半導体は高価な素材であるため、一部の高付加価値製品に用いられることが多くコスト観点から応用範囲が限られてきました。しかし、例えばウェハを切り出す製造工程を従来のワイヤソーで切断することからレーザーソーに切り替えることで素材ロスを軽減しさらに加工時間を短縮することができ、コストのボトルネックの解消の一助となると説明されています。

従来、SiC インゴットからウェーハを切り出す方法は、ダイヤモンドワイヤソーでの加工が主流でした。しかしSiC は硬質であるため加工に時間がかかる点と、切断部分の素材ロスが多く、インゴット1 本あたりの取り枚数の少なさといった課題から、ウェーハ量産のためには多数台のワイヤソーが必要でした。これらがSiC パワーデバイス生産時におけるコスト高の要因のひとつとなっていました。
引用 – ディスコ『KABRA』

パワー半導体メーカーは欧州大手のInfineon TechnologiesやST Microelectronics、アメリカ大手のON Semiconductor、SiCに強みを持つWOLF SPEEDさらに日本のROHM Semiconductorや三菱電機などが増産に向けた投資を発表しています。

加速する工場投資〜各企業の新設/増設動向【パワー半導体編】
2022年は、半導体工場への投資が相次いだ。EE Times Japanで取り上げた約60本の記事の中から、「パワー半導体編」「メモリ編」「ロジック編」の3本をブックレットとしてお届けする。本稿は、第1弾となる「パワー半導体編」である。

次四半期の業績見通しと市況回復について

顧客による実際の検収をベースとする売上額(顧客の検収タイミングによって業績が変動する)では好調のディスコですが、実際の製造装置需要の需要を見る上で重要な出荷額ベースで見ると1-3月期はQoQでマイナスとなっています。

なお、ディスコは4月-6月期の業績を下記のように見込んでいます。

ディスコによると1-3月期において検収が進捗したことにより、反動で4-6月の業績は減収を予想しているが、営業利益率等は引き続き30%超で推移する見込み。また、需要面ではパワー半導体向けが引き続き高水準の出荷を見込むも量産用途の装置需要は足元も低調であること、為替想定を円高に見積もっていることにより出荷額の水準は低下する見込み、とのことです。

引き続きパワー半導体向けの需要は好調を見込んでいるようですが、一方でメモリーなどのIC向け需要は回復期について明記されておらず不透明な状況が続いていることがわかります。

引き続き、半導体市場の動向について注視して参ります。

 

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